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第8話
やはり折戸の言う通り、俺は病的なのだろうか。
彼の写真を見ながら顔を緩ませる事…
彼のバイト先を双眼鏡で覗く事…
一体どこからどこまでが病的に値するのだろうか。
そのような事を考えている間に折戸はこの場を離れたらしく、見上げた先にはもう折戸は居なかった。
「はぁ…」
俺は大きな溜息をついてからスマートフォンを手に取り、またあの写真に目を向ける。
やはり、彼は可愛らしい。
思わず表情が緩む。
折戸から受けたダメージが癒されていく。
寝顔は確かに可愛らしい。
けれど、その他のパーツは明らかに男性のものだ。
細身ながら男性特有の体格をしているのだから、俺が恋焦がれている相手が男性であるという事実は受け入れなくてはならない。
彼はどのような声で話すのだろうか…
どのような顔で笑うのだろうか…
彼を知りたい…
スマートフォンを仕舞うと、コーヒーを一口含み邪心を振り払うかのように仕事を再開した。
俺が集中を解いた頃には、もう外は暮れかかっていた。
眼鏡を外して目頭を押さえると身体を伸ばすように立ち上がった。
そして手早く帰り支度を済ませ、社長室を出た。
「うっわ、マジ?超熱烈すぎっしょ。」
秘書課のソファーには、いつものように会社へ遊びに来ていた新見君が腰をかけていた。
すぐ隣に折戸も腰をかけ、とても楽し気に話していた。
「新見君、いらっしゃい。」
「あ、八神さんお疲れ。」
「今、ここ数日の貴方の様子を颯斗くんに報告していたところです。」
「そのような報告はしなくてよいよ、折戸。」
「八神さんさ、今度店に来ればいいじゃん!」
「え?」
「実物に会ってみりゃいいじゃん。ストーカーじゃなくてさ。」
「新見君、俺はストーカーではないからね。」
「いやいや、今のままじゃストーカーだって、マジで。ほら、実物見たら夢も覚めるかもしれないし。」
彼に会う…
会ってどうする…
会話をすればよいのか?
意中の相手との会話…
一体、何を話せばよいのだろうか…
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