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第11話

とても整った綺麗な顔立ちの人だった。 お客さんに見せる笑顔もとても自然なもので、この仕事がとても好きなのだという事が伺えた。 折戸が手を挙げると、彼が即座に反応し近づいてきた。 全身に緊張が走った。 「いらっしゃいませ。ご注文はお決まりですか?」 俺が知っている彼と、目の前に居る彼は違う。 綺麗であるという印象とは別に、俺が好意を寄せている相手が男性なのだという事を再認識させられた。 写真からは感じられなかった、丸みのないシャープな顎であったり、身体のラインであったり、角張っていて血管の浮き上がった手であったり、低い声であったり… どう見ても女性のものではない。 「サンドイッチのセットをお願いできますか?」 「お飲物はいかがされますか?」 「では、アイスティーでお願いします。…総一郎、貴方は決まりましたか?」 「…」 「総一郎?」 「…え、あ、なに?」 折戸の声はまったく耳には届いてはいなかった。 彼に全神経を集中させていたからだ。 「…では、同じ物をもう一つお願いします。飲み物は、アイスコーヒーを。」 折戸が俺の変わりに言った。 俺は、恥ずかしさとみっともなさに俯く事しかできなかった。 「では、ご注文を繰り返させていただきます。サンドイッチセットをお二つに、お飲物はアイスティーとアイスコーヒーでよろしいですか?」 「はい、間違いないです。」 「ご注文承りました。ごゆっくりどうぞ。」 彼が奥へと戻っていく気配がする。 彼とのファーストコンタクトは、会話をするどころか、明らかに不審者だという印象しか与えなかったであろう、不甲斐ない結果で終わった。 その日の仕事終わり、会社にやってきた新見君に、当然の如く責められた。 「ありゃないって、八神さん!しっかし、八神さんがあそこまてヘタレキャラだったとはびっくりだ。」 「颯斗君、総一郎は今も昔もヘタレですよ。」 「折戸、余計な事は言わなくてもよいよ。」 「アレだな、八神さんにはリベンジしてもらわないとだな。」 楽しげな新見君に俺は嫌な予感がした。 「…リベンジというと?」 「まぁ、詳細は後々って事で!」 詳細が明かされないまま、一日一日と時間ばかりが過ぎていった。 俺のやる気の向上の為に、折戸はあれから毎日のようにデリバリーサービスを利用している。 その中には、彼が運んできたものも含まれている。 折戸にいちいち事細かに報告させている俺は、やはり病的なのだろうか… 俺の頭の中は相変わらず彼の事ばかりだ。 とある日の仕事終わり、スマートフォンを確認すると、新見君から着信があった。 初めての事に、少し戸惑いを感じつつも、電話をかけ直した。 「あ、八神さん?俺今シュートと飲んでんだけど、八神さんも壱矢さんと来たらどうだ?…リベンジだ、リ・ベ・ン・ジ!!」 リベンジ… その日は、唐突に訪れた。 「ちょっと待って、新見君。」 「壱矢さんには伝えといたし、八神さんは只俺たちに任せとけばいいからな。じゃぁ、シュートが怪しむから戻るわ。また後でな。」 拒否をする間もなく切られてしまった。

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