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第14話
暫くし、マスターがグラスを俺の前に置くと、積み重なった氷が音を立て崩れた。
「君、凄く酔っているね…お水でも飲んで、少し落ち着いた方がよいのではないかい?…」
彼にお冷やを渡そうとしたのだけれど、それよりも先に彼の手がお酒に伸びた。
そして、それを口にした。
元々酔っていた事もあり、その一口で酔い潰れてしまった。
このまま放っておける筈もなく、カウンターにお札を置いて、彼を支えながらバーを出た。
彼が俺に触れた事により、全てが狂ってしまった。
会話が楽しめればよいと思っていた事は事実だ。
それなのにも関わらず、フツフツと沸き上がってしまった欲…
俺は、タクシーに乗り、自宅とは別に借りているホテルの一室へ向かった。
折戸のお父様が経営されているホテルである為、信頼を置ける。
VIPと呼ばれている人物が多く宿泊する事もあり、セキュリティ面でも安心ができる。
部屋に着くと、彼をベッドに寝かせた。
彼の唇から小さな呻きが漏れた。
ベッドの端に腰を掛け、彼を見つめる。
その先には、あの写真と変わりのない可愛らしい寝顔があった。
指先で頬を擽る。
睫毛が揺れて、また口元から息が漏れた。
ずっと恋焦がれていた彼が目の前に居る。
写真越しではあったけれど、この寝顔に強く惹かれた。
そして、今こうして触れている。
この頬に女性のような柔らかさはない。
けれど、そのような事は然程問題ではない。
一度ベッドから離れ、上着とベストを椅子に掛けた。
ネクタイを緩めながら再度ベッドに腰を下ろすと、音を立ててベッドが軋んだ。
「本当に、可愛らしいね。このような事をするつもりはなかったのだけれど、少し、触れさせてもらうよ…」
彼の衣服に手をかける。
ゆっくりと脱がせてゆき、ベッド下へと落とした。
細身ではあるが、しっかりと男性の体格をしている。
そして、何よりも彼のモノが立派であった事に驚いた。
身体の線を指先でなぞると、口元から息を漏らした。
反応が可愛らしくて何度も何度もなぞった。
彼を組み敷き、その胸元に顔を埋め、唇で彼の肌を感じる。
その肌から発っせられるとてもよい香りが俺を惑わせた。
吸った部分に赤く残った痕が満足感を与える。
その痕が所有の証である事は理解している。
彼が性に関しては少しだらしのない部分があるという話は新見くんから聞いていた。
この印が残っている限り、彼は他の相手の元へは行かないだろう。
俺は簡単に消えてしまわぬように、強く無数の痕を残した。
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