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第16話
挿入したのは指先だけだ。
しかし、彼の眉間は激しく歪んでいた。
「んぅ…ぐっ…」
口元からは苦しげな声が漏れる。
慣れている筈の彼の秘部は、まるで拒絶するかのように押し返す。
男性を相手にする事など初めての経験である為、何かを間違えたのではないかと不安になった。
しかし、もう後戻りはできない。
指を馴染ませるようにゆっくり根元まで進ませた。
本当に、このような狭い場所へ挿入などできるのだろうか…
しかし、実際のところ不安感よりも、新しい彼の表情が見られる事への好奇心の方が勝っていた。
苦し気ではあるが、その場所が徐々に馴染んできている事は確かだ。
拒絶してくれていたら…
無理な話だ。
意識のない彼と行為に及ぼうとしているのだから…
ローションも手伝って、指の抜き差しも滑らかなものになってきている。
徐々に激しく抜き差ししていくと指先が突起物に当たった。
その場所を擦ると、明らかに彼の反応は先程のものとは変わった。
「…ぁっ…んぅ…ッ…」
今触れている場所が男性が快くなる場所のようだ。
その証拠に少し高めの声を漏らして、上気した顔は切なげに眉間を寄せた。
その表情は俺を更に煽った。
「ふふ…可愛らしいね。」
このような反応をされては困る。
彼の深い場所を知りたい…そのように感じてしまう。
物事には順序というものがある。
その順序を無視してまでも欲しい…
「…どうやら、もう我慢ができそうにない。悪く思わないでね…俺を誘い、煽ったのは君なのだから…」
自分に、そのように言い聞かせる。
彼の快い場所を擦った。
その度に彼は甘い声をあげた。
もう限界だ…
苦しい…
胸が高鳴って、どうにかなってしまいそうだ。
俺のモノは下着に邪魔をされ、そり返る事もできずに震えている。
苦笑せずにはいられなかった。
元々性欲は強い方ではない。
セックスも自慰も若い頃程必要ではない。
性欲が強くはないなどとよくも言えたものだ。
そのような人間が、こんなにも欲情するだろうか。
触れたい…
乱したい…
甘やかして…
溶かして…
愛したい。
今までにない感情に支配される。
そのように思える人に出会えた事は、正に奇跡としか言いようがない。
黒木蹴人…
「恐ろしい人だよ、君は…」
今までの自分が偽りだったのではないかとすら感じてしまう。
自己分析ができる人間であると思っていた。
30代も折り返しの年齢になり、新たな自分を見つける事になるだなんて…
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