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第20話

彼が唐突に起き上がった。 その様子はとても辛そうに見える。 「どちらへ行くつもりなのだい?」 「…シャワーに決まってるだろ…」 「そう。けれど、急には立ち上がらない方がよいよ。無理をさせてしまっているのだからね。」 当然ながら、無理をした記憶のない彼は忠告を受け入れる事なく立ち上がった。 「痛…ッ!!」 「俺は、忠告をしたよ。」 「クソッ…初めてのヤツを立てなくなるまで掘るとか…鬼畜か…」 初めて… どういう意味だろうか… 「……君…初めて…だったのかい?…」 今思えば、情事の反応も慣れているようには感じなかった。 デリカシーのない言葉であるとは思いつつも、口に出していた。 けれど、新見君から聞いた話しを辿れば、彼はどう考えても初めてではない筈だ。 動揺している… このような感覚は久しぶりだ。 この動揺を、俺は隠せているだろうか… 「あたり前だろッ!」 申し訳ないと思いつつも、彼の初めてを奪ったのは俺だという事実に、思わず口元が緩みそうになる。 「…経験豊富な印象を受けたのでね。まさか、初めてだったとは…」 「…まぁ、豊富なのは否定しない。」 「ふふ、否定はしないのだね。」 「あぁ。…でも、これだけは言っておく!俺に突っ込まれる趣味はない!!」 「そうなのかい?…けれど、俺の下で乱れる君はとても可愛らしかったけれどね。」 「ッ…ふざけるな!」 立ち上がってヨロヨロと自力で歩き出した彼の後ろ姿は生まれたての小鹿のようで、なんとも可愛らしい。 俺には、彼の全てが可愛らしく見える。 「本当に…困ったな…」 肌を触れ合わせた事により益々愛おしくなってしまった。 それだけではない。 ギャップ…というのだろうか。 新見君に添付してもらった写真、初めて実物を目にした日の彼、俺を誘った彼、俺の下で乱れた彼、そして今現在の彼… その全てが異なった表情をしていた。 色々な表情を見てみたい。 全てを知りたい。 そのように感じてしまった。 けれど、そのような気持ちでいるのは俺だけだ。 彼は違う。 同意なしに彼を抱いた事実が今更になって重く伸し掛かる。 暫くして、少し遠くにシャワー音を聞いた。

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