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第24話
なによりも俺を腹立たせているのは、蹴人との時間を邪魔された事だ。
「本当に機嫌を損ねているのは先方でも君でもなく、俺の方かもしれないよ。蹴人との時間を邪魔されたのだからね。」
「…え、邪魔されたって貴方、今朝まで黒木君と居たのですか?」
「彼が意識を無くす程酔ってしまってね。俺も飲んでしまったでしょう?だからね、君から借りている部屋に連れて帰ったのだよ。」
「…」
「やむを得ずだよ。そのまま放って帰るわけにはいかないでしょう?」
やむを得ずとはよくも言えたものだ。
誘われたとはいえ、真に受けて、連れて帰ったというのに…
「まさかとは思いますが……」
「したよ、セックス…」
「…貴方にしては、随分と手が早いですね。」
「そうだね。自分でも驚いているよ。新たな自分を見つけてしまったようでね…」
「…」
「ねぇ…折戸は、目が覚めた時に知らない男に組み敷かれていたとしたならば…どのように思うかい?」
「社会復帰ができなくなる程痛めつけますね。それはもう心も身体も骨の髄まで…」
折戸の発言はともかくとしても、それ程までに許されない行為であった事は事実だ。
「それは、恐ろしいね…」
溜息をついた。
後先考えずに行動をしていた。
何事にも慎重に慎重を重ねて生きてきた筈だ。
「…当然、合意の上での行為ですよね?」
「彼は、眠っていたよ。少し触れるだけのつもりだったのだけれどね。あまりにも可愛らしいものだから、我慢が利かなくなってしまってね…」
「あぁ、終わりましたね…。一体、何人の社員が路頭に迷う事になるのでしょうか…」
「それは困るね。」
「他人事みたいな言い方は止めてください!!本当に、貴方という人は!馬鹿なんですか!貴方らしくもない!」
折戸に怒鳴られてしまった。
しかし、それは当然だ。
たった一つの間違いがもたらす影響はあまりに大きい。
分かっていた筈だ。
「分かっているよ。全ては俺が悪い。後先考えず、自分の気持ちを走らせてしまった。その事がもたらす影響も、理解している。」
「…貴方の慎重さは、私が一番理解しているつもりです。自分を押さえ付ける事ができなくなる程のものに、貴方は出会ってしまった…ただ、それだけの事なのでしょう?」
「そう…なのかな?」
「貴方は、今まで自分を押さえ込みすぎた。だからこそ、解き放たれた時が怖い。…けれど、私は少しだけ…本当は腸が煮えくり返りそうでもありますが、嬉しくも思います。今の貴方は、とても人間らしい。」
「…折戸、迷惑をかけてしまうかもしれないね。」
「今更です。」
「迷惑ついでに、もう一つお願いがあるのだけれど、会社に戻る前に寄りたい場所があってね、よいかな?」
「…仕方がないですね、少しだけですよ?」
珍しく折戸からの許可が出た。
人間らしい…
確かに自分を押し殺して生きてきた自覚はある。
けれど、折戸にそこまで言わせる程に人間らしくなかったのだろうか。
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