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第26話
ただでさえ辛い筈なのにも関わらず、無理をして働こうとする。
身なりはきちんとしているし、大学にも通っているという事から、深刻な貧困状態だというわけでもなさそうだ。
ならば、なぜここまで…
見た目とは裏腹、根っからの真面目という事だろうか。
いくら真面目だからといっても、このまま無理を通させるわけにはいかない。
彼をこのような状態に追い込んでしまった俺としては、責任を感じる事は当然なのだ。
自ら仕事を休むという選択ができないのであれば、そのきっかけは俺が作ればよい。
ただの勝手なお節介だ。
蹴人が望んだ事ではない。
お節介など、結局はただの自己満足にすぎないのである。
手を立ち去ろうとする蹴人のしたお尻を軽く揉んだ。
「ひッ!」
当然、悲鳴を堪えたような声を出しながら、蹴人は声を隠すように慌てて口元を押さえながら、しゃがみ込んだ。
「ふふ、大丈夫かい?」
腰が抜けているのだから、平気なわけがない。
「大丈夫なわけないだろ!お前、どういうつもりだ!!」
立ち上がれなくなった蹴人が俺を睨んだ。
蹴人が俺に向ける表情はこのようなものばかりだ。
自業自得…
その一言に尽きる。
「困ったね。さて、どうしたものか…」
俺はただ、睨まれたところで動じないというかのように余裕を装う事しかできない。
「シュート、どうした?」
聞き馴染みのある声だ。
しゃがみ込んでいる蹴人に声をかけたのは新見君であった。
「お店の人かい?席を立とうとした際に転倒させてしまってね。君、申し訳なかったね。大丈夫かい?」
自分でも呆れる程にわざとらしい台詞だ。
新見君は話を合わせてくれるだろうか…
隠すつもりはない。
しかし、まだ俺の身分を知られたくはなかった。
蹴人には普通に接してほしかった。
「え、そうなんですか?彼は丈夫にできてるので大丈夫だと思いますけど、寧ろお客様に怪我はないですか?…って、あれ?」
やはり、新見君は俺の意図には気づかない。
仕方なく自分の口元に人差し指を立ててその先の言葉を制した。
「えーと…あー…うー…んと…アソコノビルノイケメンサンジャナイデスカァ。あはははは…」
流石の新見君も気づいてくれたようだ。
しかし、驚く程に嘘が苦手なようで、挙動不審になっていた。
「君、少し彼を休ませてあげてくれるかい?万が一にも、頭を打っていたり、怪我などをしていると大変だからね。」
会話を続ければ更なるボロが出る。
新見君はそのように判断したのだろう。
蹴人を連れて、店の奥へと消えていった。
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