66 / 270
第27話
恨まれる事になるのだろうけれど、新見君に任せておけば安心だ。
俺は店を後にした。
会社に戻ると、机の上には大量の書類が積まれていた。
午前中を無駄にしてしまったのだから当然の事だ。
その山を見て溜息をついた俺を、折戸がガミガミと叱った。
スマートフォンに目をやると、新見くんからメールが来ていた。
内容は、蹴人が早退をしたという事であった。
俺は、そのメールに安心をして仕事に取りかかった。
結局、会社を出たのは22:00を回った頃だ。
部下には、残業はできるだけしないように…などと言っておきながら、当の本人が残業をしているのだから示しがつかない。
俺は苦笑し、車に乗り込んだ。
蹴人は大丈夫なのだろうか…
しっかりと休めただろうか…
とても心配だ。
蹴人の声が聞きたい。
スーツのポケットからスマートフォンを取り出し、通話ボタンを押した。
暫くすると繋がった。
意外だった。
出てくれるだなんて思ってもいなかったのだから…
「………はい。」
「こんばんは、蹴人。八神だけれど、分かるかい?」
「…」
「少し、様子が気になってね…」
「お前のせいだろ。」
「ふふ、その様子であれば心配をする必要はなさそうだね。安心したよ。…ねぇ蹴人、来週の土曜日なのだけれど、空けておいてもらえるかい?」
時間が経過してしまっては、もう会えないかもしれない。
まずは約束を取りつけなくてはいけない。
「は?…」
「都合が悪いのかい?」
「バイトがある。」
「アルバイトは、何時頃に終わるのだい?」
「18:00…だ。」
「そう。では18:00にお店まで迎えに行くよ。」
「ちょ、おい、俺はまだ行くとは…」
少しくらい強引でなければ約束は叶わない。
「土曜日をとても楽しみにしているよ。…おやすみ、蹴人。」
俺は通話を切った。
返事などはさせない。
断られる事くらい分かっている。
分かっているからこそ、言わせる必要もない。
おそらく、蹴人は来るだろう。
彼は真面目な子だ。
俺が間違って捉えていなければの話だけれど…
強引に漕ぎ着けた約束だ。
しかし、それでも構わない。
俺としては少しでも長く、例え強引な手段であったとしても、蹴人と繋がっていたいのだ。
少しでも、俺という人間を蹴人の中に刻みたい。
出会いが蹴人の中では最悪なものになってしまったからこそ、余計にそのような気持ちが強くなる。
俺はスマートフォンを仕舞って、車を走らせ会社を後にした。
ともだちにシェアしよう!