車を走らせてお店の前に止めると、暫くして蹴人の姿が見えた。 蹴人と目が合い、軽く手を振ると彼は目を見開いて車と俺を交互に見てからもう一度俺と目線を合わせた。 「お疲れ様、蹴人。来てくれて嬉しいよ。早速で申し訳ないのだけれど、乗ってくれるかい？」 「え、あ、あぁ…」 俺は助手席のドアを開いて、乗るようにと促した。 蹴人は少し緊張した様子で車に乗り込んだ。 あまりにも挙動不審で、それがまた可愛いらしくて、思わず笑ってしまった。 俺も車に乗り込みエンジンをかけ、蹴人がシートベルトをした事を確認し、車を走らせた。 「身体の調子はどうだい？」 「それ、…いつの話だ。」 「確かにその通りだね。もう二週間以上も経っているのだからね。…けれど、とても気になっていたのだよ。」 「気にするくらいならガン掘りするな！つか、どこに向かってるんだ、この車は。」 「俺の家だよ。」 「は？」 「安心してよいよ。深い意味はないからね。」 深い意味がないなどとは、よく言えたものだ。 好意を抱いている相手を自宅に招き入れる事に下心がないわけがない。 身内の訪問はあるものの、自らが望んで招き入れたたのは、蹴人で三人目だ。 一人は折戸… そしてもう一人は、折戸と同じく、俺が信頼を寄せている高校時代の友人だ。 蹴人は彼等とは違う。 きっと、誰よりも頻繁に出入りする事になるという予感がしている。 そのように感じているからこそ招くのだ。 蹴人にとっては、まだ俺は出会って間もない存在なのだろうけれど、俺は以前から蹴人を知っていて、病的と言われる程に執着している。 この気持ちはどのようにすれば伝わるのだろう… やはり、同意のないままにあのような関係になってしまった事が、そもそもの間違いだったのだろうか… 俺が自宅に招き入れるという時点で、とても特別な存在であるという事すらも、蹴人は知らない。 どうか、気付いてほしい。 俺がとても蹴人を思っている事に… 早く気付いてほしい… 俺は今夜、蹴人を抱くという確信がある。 そのような事を考えながら車を止め、蹴人の横顔を見つめた。 「…随分広い駐車場だな。」 「そうかな、普通だと思うけれど。」 「お前、それ嫌味か。」 蹴人は早々にシートベルトを外して車を降りていってしまった。 俺も蹴人を追うように車を降りて、リモコンキーで鍵をかけた。 エレベーターに乗って、自宅に向かった。