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第4話
プハッとコップから唇を離したが、まだ落ち着かないらしく、氷をガリガリ噛み砕いて俺を見た。
「で、八神さんってどんな顔で腰振るんだ?どんな顔してイくんだ?なぁなぁ、どうなんだよ、100文字で述べよ。」
「述べるか!つか、行き着いた先の第一声がそれか!!」
「まぁまぁ。じゃぁ上手いか下手かだけでも!」
「お前、興味津々だな…」
「だってシュートが掘られてるんだぞ?興味津々にもなるだろ!!」
「上手いのか下手なのかの基準はよく分からない。ただ、悔しいが嫌悪感はなかった…」
「あらやだ、シュートきゅんが乙女の顔になってる。」
「…あ?」
「嘘です。…ま、冗談はここまでにして、やっぱ八神さんはセフレか?」
「当たり前だろ。」
「…そっか。てっきり本命ができたのかと思った。突っ込むの許すくらい好きになったのかもってさ。」
「本命?…勘弁してくれ。縛られるのが嫌いな事くらい知ってるだろ。」
「まぁ、そうだけどさ…」
「とにかく、俺と八神は颯斗が思ってるような関係じゃない。只のセフレだ。」
「只のって…。なんか俺、八神さんが不憫に思えてきた…」
「は?不憫なのは俺の方だ。」
「…シュートってさ、ずっと思ってたけど鈍感だよな。」
「は?」
「鈍感だ、鈍感!ど・ん・か・んっ!!おまけに超も付けて超鈍感ッ!!」
「颯斗、お前黙れ…」
不憫…
鈍感…
颯斗の言葉の意味が理解できない。
「不憫にもなるだろ。八神さん、シュートにメロメロだし。なぁシュート、あんま余裕ぶっこいてるとそのうち捨てられるぞ。もしくは横取りされるか。ほら、八神さん優良物件だろ?」
「捨てるって…。俺は最初から八神のモノじゃない。…望んでの事じゃないし、綺麗さっぱり終わるなら大歓迎だ。」
「はぁ…八神さんかわいそう…」
颯斗が盛大に溜息を吐いた。
そんな馬鹿な事を話しながら着替えを終えてバイト先を出た。
颯斗は最近折戸さんから合鍵を貰ったらしい。
これから折戸さんの家に夕飯を作りに行くと言っていた。
俺は颯斗と別れてチャリに乗ると、アパートに向けて漕ぎ始めた。
途中コンビニに寄って弁当を買って、部屋に着くと部屋着に着替えて弁当で腹を満たした。
八神の家に居る時は八神が飯を作る。
ボンボンで社長だけど、八神は意外となんでもこなす。
どこまでも腹が立つヤツだ。
すっかり八神の飯に慣れたせいか、美味いと思っていたコンビニ弁当が美味いと思えなくなった。
八神と居る事が俺の生活に定着しつつある。
最近、気づくと八神の事ばかり考えている。
今だってそうだ。
わけが分からない…
俺は軽く溜息を吐いて、弁当の容器をゴミ袋に突っ込んだ。
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