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第5話
シャワーを浴びようと取り込んだままぐしゃぐしゃに置かれた洗濯物の中から下着を漁ってると電話が鳴った。
時間的にも八神だ。
スマホを見ると着信相手はやっぱり八神だった。
無視すればいいのに…
まるで癖のようにスマホを取る。
「なんだ…」
「こんばんは、蹴人。仕事が終わったのでね、君の声で癒してもらおうかと思ってかけてみたのだけれど…」
「よくもそんな小っ恥ずかしい台詞吐けるな。」
「本当の事だよ。君と話をしていると時間がなによりも癒される。」
「黙れ。シャワー浴びるから切るぞ。」
「酷いなぁ。もう少し付き合ってくれてもよいのではないかい?」
「甘ったれるな。」
「今日は折角君に会いに行ったというのにも関わらず、折戸に邪魔をされてしまったのでね、蹴人不足なのだよ。だから、ね?もう少しだけ…」
「…」
俺不足…
やっぱり八神はわけの分からないヤツだ。
八神からの電話は毎日こんな感じだ。
「蹴人、もう少し…いいよね?」
こうやって甘ったれた声を出されると拒否できなくなる。
そんな自分が嫌になる…
「つか、お前仕事中に来るな。毎回毎回折戸さんが大変だろ。」
「…俺と話をしているというのに折戸の話かい?」
「…」
「俺はね、君の事になると冷静さを失ってしまうらしくてね、折戸にも注意をされたよ。今も、恥ずかしながら折戸に嫉妬している…」
嫉妬…
なぜ八神が折戸さんに嫉妬なんてするんだ…
「くだらない事ばかり言ってるとマジで切るぞ。」
「本当の事なのだけれどね。残念だけれど、今日は切るよ。…おやすみ、蹴人。」
「とっとと寝ろ。」
やけに早く解放された。
いつもならもっとしつこいのに、珍しい事もあるものだ。
八神のいつもと違う態度が気になる…
そのモヤモヤした気持ちを振り払うように首を左右に振った。
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