翌朝、俺は珍しく寝坊した。 朝っぱらから最悪な気分だ。 いつもより早く寝た筈なのにおかしい… 偶然つけたテレビの占いは最下位… それは更に俺のモチベーションを下げた。 身支度も程々にして部屋を出てから足早に駅へと向かった。 ピピッと電子マネーカードをタッチして階段を駆け上がった。 ホームに着くと、丁度電車の扉が閉まったところだった。 来る途中も黒猫に横切られ、信号は全部赤… どうやら今日は厄日らしい。 少し上がった息を整えながら、向かいのホームをボーッと眺めた。 そこに、見覚えのあるスーツ姿がサマになった男が立っていた。 八神だ。 でも、平日のこんな時間に八神が駅に居るわけがない。 その隣には見覚えのない男の姿があった。 その男は八神の腕にしがみついていた。 遠目なせいかその男の顔までは見えない。 分かるのは、八神とその男が遠目から見ても分かる程お似合いだって事だけだ。 胸が苦しいのは、きっと息が上がっているせいだ。 八神がその男の頭を撫でた。 その手は、俺がよく知ってる動きをしていた。 なぜか頭がグルグル回る。 そんな時、タイミングよく電車がホームに入ってきた。 電車に乗り込み窓越しに向かいのホームを見ると、二人は相変わらずの様子だった。 結局、俺は一限には間に合わなかった。 いや、間に合っていた筈だ。 なのに俺は自ら急ぐ事を止めた。 急がないと遅刻すると分かっていながら、もうどうでもいいと思ってしまった。 なぜだ… 酷く頭が混乱している… 二限には間に合って席に座った。 隣に颯斗が座って俺を覗き込んだ。 今日は唯一颯斗と受講科目が被っている日だ。 「シュート、おはよ。遅刻なんて珍しいじゃんか。」 「あぁ…おはよ…」 「おいおい、死んだ魚の目してるけど大丈夫か？」 「え、魚がなんだって？」 「医務室いくか？」 「…颯斗、おはよ。」 「うっわ、怖ぇ～。どうしたよ？」 「いや、八神が…」 「八神さん？八神さんとなんかあったのか？」 「いや…別になにもない。」 今日の俺はおかしい。 いつから… 寝坊した時… 電車に乗り遅れた時… 八神を駅で見かけた時… 一体いつから… いつから俺はおかしいんだ。