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第10話

いつ眠ったのか、目を覚ますと翌日の昼過ぎだった。 午前中を無駄にした。 レポート発表用のレジュメや配布資料を作成するつもりでいただけにダメージがデカい。 まだ発表までには日にちがあるが、ギリギリになって追われたくはない。 だからできるだけ早めに形にしておきたいと思っていた。 遅れを取り戻す為に作業を開始した。 大学とバイト、夜はひたすらレポートを書く日々が続いた。 毎日コツコツ… きちんとやっていた筈だ。 なのに、完成したのは発表の前日だった。 こんな事は初めてだ。 俺は、机に向かっていただけで全然集中できていなかった。 手が… 動かなかった。 八神と連れの男がチラチラ頭に浮かんで、俺の邪魔をした。 発表が終わった瞬間、一気に力が抜けて、その後のヤツの発表をそっちのけで居眠りをする程疲労困憊していた。 思えば、授業中に居眠りをしたのは初めての事だ。 最前列に居たにも関わらず、堂々と居眠りをしていた自分にショックを受けた。 その後、疲れを引きずったままバイトに向かった。 「シュート、なんか更に拗らせた感じ?」 「お黙りくださいませ?お客様。」 「何語だよ。」 颯斗は今日、客として店に来ている。 その向かいには折戸さんも居た。 「颯斗くん、口元にクリームが付いていますよ。」 「まじで?とってくれよ、壱矢さん。」 「仕方がありませんね、颯斗くん。」 折戸さんが苦笑しつつ颯斗の口元をハンカチで拭いた。 二人は、相変わらず仲が良い。 「ん、ありがと、壱矢さん。」 「いえいえ。」 颯斗は嬉しそうに笑った。 二十歳過ぎの男が、恋人に口の回りの世話をされて嬉しそうにしているだなんておかしな話だが、それでも俺はその光景を微笑ましいと思った。

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