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第12話

駐車場に響く足音を聞きながらエレベーターホールで到着を待つ。 俺と八神の間には距離がある。 いつもなら強引に距離を埋めてこようとするが、俺のピリピリした空気を察しているのか、保たれたままだ。 乗り込んでからも変化はない。 考えてみれば、まともに八神の顔も見ていない。 強引だったとはいえ、最悪のコンディションの中大人しく諦めて着いてきた俺にも落ち度はある。 八神ばかりを責められない。 それを分かっていてこの態度だ。 大人げない事も分かっているつもりだ。 エレベーターがチンッと音を立てて止まった。 八神が先に降りて、家の鍵を開け中に入って、俺はそれを追った。 「…蹴人。」 玄関に入った途端、急に後ろから抱き寄せられた。 そして、お決まりのように首筋を吸われた。 何で俺にそんな事… 訳が分からない。 抵抗しようとした時、また違和感を覚えた。 それは、抵抗しようとする気さえ失せる程の違和感だ。 おかしい… いつもとは違う… 抱き寄せてくる腕も… 押し当てられた唇も… 全てが弱々しい。 些細な違和感が俺をおかしくさせる。 「お前は、ズルい…」 「ふふ、そうだね…」 凭れかかっているのか、背中に八神の重さを感じる。 「おい…」 「…蹴人、申し訳ないのだけれど、このまま運んでもらえるかい?…」 「は?」 「ベッドまで…」 甘えた態度に甘えた声… ダメだ… なんでも聞き入れてやりたくなる… 拒否ができなくなる… 「…甘ったれるな。」 そんな事を言いつつ、俺よりデカい八神を抱えられるわけもなく、背中に乗せたままズルズル引きずって寝室まで運んだ。 疲れた身体にはなかなか辛いものがある。 分かっていながら、最終的にはこうして受け入れる。 俺は、八神に弱い。 少し乱暴にベッドに下ろすと、その弾みでベッドが軋んだ。 空いている隣のスペースを八神がポフポフと叩いた。 「………蹴人、おいで…」 その声に誘われるようにベッド端に座った。 暗闇に目が慣れてきた頃、月明かりの中でまともに見た八神の顔は、俺に負けず劣らず疲れきっていた。 「お前、顔ショボい…」 あまりの酷さに思わず吹き出しそうになった。 見て分かるくらいのくっきりしたクマとショボい目。 いつもの無駄に垂れ流した色気もなにもあったものじゃない。 そんな酷い顔の八神を、一瞬でも可愛いと思った俺は… どうかしている。

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