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第13話
俺の言葉に八神が苦笑した。
その顔すらもショボかった。
「…最近、あまり眠れていなくてね…少しだけ膝を貸してくれるかい?…」
八神が苦笑したまま俺を見上げた。
そして、俺の膝に頭を乗せた。
「お、おい、許可した覚えはない。」
「…嫌ならば、振り落としてくれても…構わないよ…」
そんな風に言われたら振り落とせるわけがない。
ズルい…
「…好きにしろ。」
「では…このままでいさせて…」
男の太腿なんて気持ちいい筈がない。
いつもとは違う八神の雰囲気や行動に戸惑う。
八神はといえば、スリスリと膝に頬を擦り寄りてくる始末で、イメージがだだ崩れだ。
なんで俺にこんな事をするのか分からない。
甘えるならあの男のところに行けばいい。
なのに、なんで俺にこんな事をするのか分からない。
暫くすると八神の寝息が聞こえた。
「………マジ、勘弁…」
ポツリと呟いた。
さっきまでピリピリしていた俺はどこへ行ったのやら…
寝ていないと言っていたし、疲れきった顔を見せられたら起こすのも気の毒に思える。
結局、俺はそのままの体勢で一睡もできないまま朝を迎えた。
伸びの一つもしたいくらいに凝り固まった身体が痛い。
「おい、いい加減起きろっ!!」
「………んッ…」
八神が俺の膝の上で身じろいだ。
睫毛が揺れて、ゆっくりと目が開いた。
「…おはよう、蹴人…」
「おはようとかそういうのはいいから、とっとと退け。いい加減身体が痛い。」
「一晩中、こうしていてくれたのかい?」
「…文句あるか。」
「まさか。文句などある筈がないよ。…ふふ、嬉しいよ…」
八神は言葉通り嬉しそうに笑った。
その顔はまだ疲れを漂わせているものの、昨日よりマシに見えた。
八神がゆっくり起き上がると、俺はやっと解放されて伸びをして立ち上がった。
「シャワー借りる…」
「シャワー?…では、俺も一緒に入ろうかな。」
「は?なんで俺がお前と入らないといけないんだ。…嫌だからな。」
「そう言わないでよ。」
「ついてくるな。」
嫌がりながら洗面所へと歩き出した俺の後ろを八神がついてくる。
俺は盛大にため息を吐いた。
洗面所は二人並んでも余裕がある程広い。
八神との関係が始まってから、ココに来る機会も増えた。
その度にヤり潰されるせいで泊まる羽目になる。
泊まるという事は、必然的にこの家に私物が増える事にもなる。
例えば、洗面台に二本並んだ歯ブラシ…
見る度に俺をげんなりさせる。
並べたつもりはない。
気づくと勝手にそうなっている。
八神のこだわりというやつなのか、嫌がらせなのか…
どちらにしても、それをどうこう言う権利は俺にはない。
ココは八神の家だ。
八神が自分のブルーの歯ブラシを手に取る。
そして、俺はなぜコレになったのかピンクの歯ブラシだ。
手渡されたチューブをそれに付けて、並んで歯みがきをした。
その後、俺が顔を洗っている間に、八神がたいして伸びてもいない髭を剃った。
「先に入るぞ。」
嫌がったところで八神は諦めないだろう。
簡単に諦めるようなヤツじゃない。
一応断りをいれてから、服を脱いで浴室に入った。
温度を調節してシャワーを頭から浴びた。
身体がすっきりしていく感覚が気持ちいい…
扉が開く音で、八神が入ってきたのが分かった。
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