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第17話

久々に出した高熱は3日間も俺を苦しめた。 昨日の朝にようやく熱が下がったが一応大事を取って大学とバイトを休んだ。 寝すぎて身体が鈍った気がする。 初日は颯斗が作ったお粥を食ったが、それ以降は何も食っていない。 そのせいか、身体がフラフラする。 こんな調子で復帰できるのかと思いつつアパートを出て大学に向かった。 怠い… とにかく怠い… 駅に行くだけで息が上がる。 ふと目をやった先に、赤信号で停車した見覚えのある車を見つけた。 運転席には八神… 助手席にはあの男… 顔がはっきり見える。 日本人にはない整った顔立ち… 外人か、ハーフか… 美青年というより美少年… 多分俺より若い。 車内では二人で楽しそうに笑っていた。 八神の手が男の頭に伸びる。 甘やかすような手つきと穏やかな顔で男を撫でる。 心臓がドクドクうるさい。 心臓どころか全身がドクドクしている。 駅で見かけた時と同じ感覚だ。 いや、あの時よりもモヤモヤする。 俺は何も考えないように、持っているだけの折り畳みのヘッドホンを耳にあて、いつも聴いたりなんてしない音楽を聴きながら大学へ向かった。 「シュート!おっはよ!!俺と同時とか珍しいじゃん。遅刻ギリギリだぞっ!」 「あぁ、颯斗か。おはよ…」 「あぁ颯斗か…ってひっでぇ~。で、体調はどうよ?」 「まぁ体力的には不安だが、大分よくなった。」 「颯斗くんの献身的な看病のお・か・げ、だな。」 「献身的って初日だけだろ…」 「…シュート痩せたんじゃね?」 「たかが4日寝込んだくらいで痩せるわけないだろ。」 「いんや、痩せたし。あれだろ、横着して飯食わなかったんだろ。」 颯斗にはお見通しだ。 嘘は大抵見抜かれる。 「横着というか、あまり食欲がなくてな…」 「よーし!!でーはでは、お昼は颯斗くんと食べような。吐くまで食わせてやるから。」 「何故にそうなる…」 「…よくない傾向だから。」 一瞬颯斗が真顔になった。 こうなればもう拒否はできない。 「はぁ…了解。休んだところのノートをコピーさせてもらうから待たせる事になるぞ。」 「それなら颯斗くんのノートを貸してやるよ。」 「講義違うし、お前のノートじゃ休んでるのと変わりないだろ。」 「シュートひっでぇ~!」 「黙れ。病み上がりにお前のテンションは辛い。」 「じゃ、食堂で待ち合わせな。」 「おぉ。」 颯斗と別れて講堂に向かう。 座るのは教壇の真正面の列の最前列だ。 そこに自ら座ろうというヤツは俺くらいだ。 同じ講義を選択している仲間たちが次々と声をかけてきた。 みんな心配してくれていたらしい。 「クロ、おはよう。風邪は大丈夫なのか?クロが休むなんて初めての事で少し心配した。」 「おはよう、麻倉。もう大丈夫だ。ありがとうな。」 「…なぁ、痩せたんじゃないか?」 「お前は母ちゃんか!颯斗にも同じ事を言われた。」 俺を"クロ"と呼ぶのは、麻倉大樹(あさくらだいき)。 同じ学科を専攻している友達だ。 面倒見が良い、誰からも好かれるタイプのヤツだ。 「はは、母ちゃんって…。そうだ、休んでた間のノート、コピーしておいたけど。」 「昼休みにコピーさせてもらおうと思ってたから助かる。コピー代、いくらだ?」 「丁度缶コーヒー1本分。俺のノートはクロ程几帳面に書いてないからそこは期待しないでくれよ。」 「了解。つか、お前のノートも十分几帳面だと思うぞ。少なくとも颯斗よりはマシだ。」 「新見と比べるなよ。…なぁクロ、昼飯一緒に食べないか?コーヒーはその時で構わないから。」 「昼飯は、…颯斗と約束してる。」 「新見か…」 麻倉があからさまに嫌そうな顔をした。 颯斗と麻倉は何故か仲が悪い。 二人共お互いの事を相性が悪いと言っている。 颯斗に至っては、麻倉には近づくなと言ってくる始末だ。 「颯斗が居てもいいなら一緒に食うか?」 「分かった。…新見が居ても我慢する。」 「我慢って…」 「クロ、講義始まるからまた後でな。」 隣に座ろうとしないところが有難い。 麻倉は俺が求める距離感を察してくれる。 付かず離れず… だから、一緒に居ても苦痛がない。

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