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第20話

颯斗が座っていた席に座り直すと、飲むものだとばかり思っていた缶コーヒーを麻倉はカバンに仕舞った。 「クロ。」 「ん?」 「帰えろうか。」 「飯は?」 「クロは、食べたくないんだろ?」 「…」 「具合悪そうじゃん。食べたら吐きそうな顔してる。見てればそれくらい分かるから。」 「食堂で吐くとか言うな。それに、俺はいいとして、お前は腹減ってるだろ?」 麻倉はよく俺を見ている。 その証拠に、麻倉とはよく目が合う。 「俺はいいの。ほら、帰るぞ。」 「…ったく。」 人混みを掻き分けてながら食堂を出て、大学を後にした。 「なぁ、クロの家どこら辺?送ってく。」 「は?送ってくって、女じゃあるまいし。」 「だって、フラフラしてるし。」 「そういうのはいらない…」 「体調悪い時くらい素直になりな、クロ。」 「黙れ。」 素直になれ… それはガキの頃から今に至るまで散々言われてきた。 「はいはい。」 「…駅まででいい。」 「お、急に素直だ。」 「…黙れ。」 顔を背けた俺に、麻倉は笑った。 結局、麻倉に送られる事になった。 仕方なく了承したものの、今になって後悔している。 自分のテリトリーに他人を入れるのは好きじゃない。 「…なぁ、クロ。さっき電話で新見が言ってた人って誰?」 「…お前には関係ない。」 「恋人?」 「冗談はよせ。」 「結構真剣なんだけど。…誰?」 返答に困った。 多分、麻倉は八神の事を言っている。 八神が俺にとってどんな存在なのか… 気付いたら側に居て、気付いたら居なくなった… 清々した筈だ。 なのに、今は八神が居た空間だけがぽっかり残ったような落ち着かない感覚だ。 「だからお前には関係ないって言ってるだろ。」 「…セフレ?」 「しつこい。」 「…友だち?」 「いい加減にしろ!!」 「じゃぁ、誰?」 全て当てはまらない気がした。 ずっと、八神はセフレだと思っていた。 いつからか、それがしっくりこなくなった。 当然、友だちでもない。 一緒に居る時間が長くなって… 居るのが当たり前になって… 八神はそうやって勝手に人の中にズカズカと入り込んで、散々不必要に甘やかして、心をかき乱した。 でも、最終的にそれを受け入れて許したのは… 俺だ。

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