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第21話

くだらない質問をかわしながら改札を潜り抜け、早足で階段を上がった。 タイミングよく止まっていた電車に乗り込むと麻倉が俺の横に立った。 麻倉と居るのに八神の事ばかり考えている。 考えれば考えるだけ分からなくなる。 隣が颯斗なら気を紛らわせる為の会話くらいできるだろう。 でも、相手は颯斗じゃない。 あまり人と深く関わらないように、その場しのぎの細く浅い付き合いしかしてこなかった俺には、この状況が正直しんどい。 電車が止まって、ハッと我に返った。 「クロ、着いたぞ。」 ボーッと考え事をしていたせいでもたつく俺の腕を麻倉が引いて電車を降りた。 たった数分の乗車時間が、異様に長く感じられた。 「…」 「クロ、さっきの質問の返事、俺まだ聞いてないけど…」 心臓が跳ねた。 セフレでも友だちでもない… 俺は八神を… いや、あるわけない。 あり得ない、そんな事… あと少し手を伸ばせば辿り着きそうな答え… 俺は、その答えに薄々気づいている… 怖くて手が伸ばせない… 認めたくなくて手が伸ばせない… その答えから後退る。 また振り出しに戻ったような気分になって、盛大にため息を吐きながら階段を下った。 自然と早足になる。 自分の足音が後からついてくる感覚だ。 「…もういいだろ、この話は。改札出ると金がかかるから、ココまででいい。」 「…」 早足のまま改札を出ると、麻倉は後ろをついてきた。 「お前なぁ…」 「だって、まだ答えてもらってない。クロにはたいした話じゃなくても、俺には大事な話なんだ。」 「しつこいな。」 家までついてこられたくはない。ホントは今すぐにでも家に帰りたいくらい疲れている。なんとか振り切りたいところだ。振り切る方法を探りながら、少し遠回りをする事にした。 「クロが答えてくれるまで着いていくから。」 麻倉は真剣な顔でそう言った。 また早足になる。 「…」 「なぁクロ、なんで俺がこんな必死か分かる?」 「…」 「分からないよな、クロは鈍感だし。」 「…」 「教えてあげる。…それは、俺がクロを…」 「黙れッ!!」 声を張り上げてそれを制した。 鈍感であろうがなかろうが、そこまで言いかけられれば誰だって分かる。 それを言わせない資格は、俺にはない。 そんな事は分かっている。 でも、これ以上かき乱されたくなかった。 自分を保つ事で精一杯だ。 もうなにがなんだか分からない。 なんで… なんでこんな事になった… 「ちょっと待って、クロ。」 小走りになる俺の腕を麻倉が掴んで引き寄せられた。 一瞬、麻倉の顔が見えた。 その視線は俺じゃないものに向けられていた。 麻倉は… なにを見ている?… 訳が分からないまま、俺は麻倉の胸の中に居た。

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