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第25話

エレベーターの中で、目が合うとゆっくりと顔が近づいて、どちらからともなく唇を貪りあった。 言葉よりも行動の方が素直になれた。 八神とのキス… 久しぶりの感覚… 麻倉との時のように拒絶する事はなかった。 拒絶どころか気持ちいいとさえ思っている。 ホントに、俺はどうかしている。 きっと俺は… 八神の事が… 八神の唇が離れるとエレベーターが止まった。 先にエレベーターを降りた八神を追った。 俺達の間に、こないだのような気まずさはなかった。 八神もその事には触れなかった。 鍵を開けて中に入るといつも通りリビングに向かった。 リビングに着いても八神が手を出してくる様子はない。 温めると言うからてっきりセックスで…という意味だと思っていた。 どうやらそうじゃないらしい。 その証拠に、八神は風呂に湯を張ったり、キッチンでなんかゴソゴソしたりしている。 俺はといえば、毛布を巻かれてソファーの上に放置状態だ。 暫くして八神が戻って隣に座るとマグカップを渡してきた。 「…」 「蹴人、どうぞ。」 「…ん、サンキュ。」 俺はそれを受け取って、少し両手を温めてから一口飲んだ。 「…ッな、なんだこれッ!!」 中身は激甘なコーヒーだった。 ブラックは飲めないけど、甘すぎるのも苦手だ。 「ふふ、今日はいつもよりもお砂糖が多めだよ。疲れているようだったのでね。」 「…だとしても、コレは飲み物じゃないだろ。甘すぎて飲めない。」 自分のせいで俺が疲れているだなんて、きっと八神は一ミリも思っていない。 なんだかんだ言いつつもちょびちょび飲みながら八神に目をやる。 コーヒーを飲んでいるだけなのに、なんか絵になって腹が立つ。 「温まったかい?」 「…ん。」 「そう、それならば良かった…」 そう言った八神のネクタイを握り込んで引き寄せると自らキスをした。 温かくて激甘なコーヒーよりも、こっちが欲しいと思ってしまった。 衝動的な行動だ。 口を開くと、すぐに八神の舌が入ってきて口内を荒らされた。 やられてばかりも気にくわない。 舌を絡めたらチュッと吸われて、八神の口内に誘われた。 「…ん、ンッ…は…」 八神の口の中は、コーヒーの苦い味がした。 噛み付くように唇を塞がれて、呼吸もままならない。 唇の端の僅かな隙間から唾液が伝った。 苦しいけど、気持ちいい… 口の中が熱い… 頭グラグラする… 多分、コレはヤバいやつだ…

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