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第26話
ハッと目が覚めた。
辺りは真っ暗で何も見えない。
ただ、規則的な音と、何かに包まれているような暖かさに安心した。
無意識にスリッと頬を擦り付けた。
「…蹴人、起きたのかい?」
とても近くで、バカみたいに甘くて優しい声が聞こえた。
「…」
「…いつもよりも口内が熱いのではないかと感じていたのだけれど、熱があっただなんて驚いたよ。」
「マジか…やらかしたか…」
あまりのダサさに恥ずかしくなった。
今の状況からして、俺はあのままぶっ倒れて寝室に運ばれて、それからずっと八神の腕の中という事になる。
優しくされたら嫌でも思い出す。
そうだ、八神には本命がいる…
それなのになぜ俺に優しくするのか…
八神の真意が見えない。
俺は八神から離れて寝返りを打つと背を向けた。
「…蹴人、どうしたのだい?」
「…別に、どうもしない。」
後ろから抱きしめられた。
嫌でも感じる八神の体温と心臓の音…
身体の熱と八神の熱で茹りそうだ。
「蹴人、少し話をしようか。」
「…話?別にお前と話す事なんかない。病人にこれ以上喋らすつもりか、…寝かせろ…」
「ごめんね。けれど、少しだけ付き合って。…嫌かい?」
俺は、八神のこういう言い方に弱い。
それを知ってか知らずか、八神はこういう言い方をする時がある。
それは強制をしていないようで、実は強い強制力を持っている。
「…少し、だからな。」
だから、俺は拒否ができない。
俺を抱きしめる八神の力が強くなった気がした。
「蹴人、君の様子がおかしかった原因はなんだい?」
ストレートだ。
困るくらいのまっすぐな…
「…別に…おかしくない。」
「蹴人、どうかはぐらかさないで…」
「…ッ………お前のせいだろう!!」
「俺のせい?…」
「全部、お前のせいだろうが!!」
「…」
「全部、お前が悪い!!バカみたいに甘い声で甘やかしたり、触ったり…毎日電話してきたり、忙しいクセにバイト先に来たり…ホントわけ分からなすぎる。…だから全部、お前が悪いッ!!」
「……困ったね。俺は今、君に怒られているのだろうけれど…なぜだろうね、愛の告白のように聞こえてしまう…」
「ふざけるな…」
「あの日…初めて君をこの部屋に連れてきた日に俺が伝えた言葉を忘れてしまったのかい?」
「俺に…伝えた言葉?…」
頭によぎったのは、落ちる前に聞こえた言葉…
意識は飛びかけていたから気のせいだとばかり思っていた。
でも、実際八神は…
ーーー …蹴人、好きだよ…君を、愛している…
聞こえていた。
俺は薄れた意識の中で聞いていた。
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