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第29話
俺以外を可愛いと言う八神を初めて見た。
それは凄く優しい顔で、ホントに弟が可愛くて仕方ない事が分かる。
「…見る。」
八神がパソコンを脇に置いて、サイドテーブルの引き出しから一枚の写真を取り出して俺に渡した。
「この人が義母で、その隣が弟だよ。家族が海外へ引っ越しをする少し前に撮影したものだよ。」
「これ、お前か?」
「そうだよ。君と同じくらいの年齢の頃の写真だから少し若く見えるかもしれないね。」
「いや、若いというか、もう既に色々出来上がってるというか…」
思わず苦笑した。
アレで同い年の頃とか言われると、いまだにコレな俺の立場がなくなる。
「君ね、それでは俺が老けているみたいではないか…」
八神は不服そうだ。
しかし、まるで絵に描いたような美麗一家だ。
義母だと指を指した人はどう見ても日本人じゃない。
ウェーブのかかった金色の長い髪に青い瞳…
そして弟もまだ幼いが、金色のキノコに青い瞳…
多分、まだ小学生頃の時の写真だと思う。
弟も弟で、既に出来上がっている。
恐るべし、八神家…
写真の中に父親が居ない事が少し気になったが、それにはあえて触れなかった。
「…弟なら弟って最初から言え、バカ!!」
「え?」
不安だった…
けど、そんな事は口が裂けても言わない。
俺ですら、いまだに認めたくない感情だ。
「…なんでもない。」
「気にしていたのかい?」
「そんなわけ、ないだろ…」
ずっと気になっていた。
日常生活もままならないくらいに…
多分、俺は気に入らなかったんだと思う。
八神がデレデレベタベタしてる姿が…
だから毎日無駄にイライラしていた。
誰かにこんな感情を向けるのは初めてだった。
だから分からなかった。
でも、今は分かる。
「それは、残念だなぁ。」
「…」
「あの日…君を一人で帰宅させてしまった日の事は俺にも非があると感じているよ。」
「…」
唐突だった。
もうこの話に関して八神は話すつもりがないと思っていた。
だから少し驚いた。
「ずっと、後悔していた。…強引に君を抱いた事を…」
「は?」
「後悔はしていないと自分に言い聞かせていたのだけれどね…」
「なんだ…それ…」
「後悔していたからこそ、君の発言や態度に敏感になって…」
「…ッ…けるな…」
「え?」
「ふざけるな!…お前が後悔なんてしたら俺の立場どうなるんだ!!」
「分かっている…分かっているつもりだよ。俺が毎日のように君に電話をしたり、メールをしたりしていたのはね、少しでも長く君を手元に置いておきたかったからだよ…」
「…」
「その後も君を何度も抱いたのは、少しでも長い間、せめて身体だけでも君を繋ぎ止めておきたいと感じていたから…」
「…ッ…」
「不安で仕方がなかった…君が、俺の前から居なくなってしまいそうで、怖くて仕方がなかった…」
「…確かに俺とお前の出会いは最悪だった。でも、その後の事は俺の同意の上だっただろうが。俺はその選択に後悔なんてしてない。…そもそも、嫌だったらこうしてお前に会ったりなんてしないし、電話にだって出ない。だから、勝手に不安がったりするな!」
「蹴人…」
「…なんだ。」
「ッ…ごめんね、蹴人…少し、気持ちが悪くて…」
八神が口元を押さえた。
顔色も悪い。
これはかなりヤバいやつだ。
「…は?バカ、早く便所行け!!こんなとこで吐くな。」
俺にしてはこれでも色々頑張った方だと思う。
なのに途中で便所に行くとか、ホントにどうしようもないヤツだ。
八神は、完璧でいたがるクセに俺の前では少しダサい。
そんなヤツだから放っておけなくなる。
八神はトイレに籠りきりで、暫くしてから折戸さんが帰ってきて、俺はバイトに行った。
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