113 / 270
第30話
俺は八神に何を言おうとしていたのか…
もしも八神の体調が悪くならなかったら…
俺はどうするつもりだったんだろうか。
そんなモヤモヤした気持ちを引きずったまま働いた。
「しっかし災難だったな、シュート。麻倉にはキスされるは、八神さんには告ってる最中に吐かれそうになるは。つか、麻倉は死刑。」
バイト後の颯斗との恒例トークだ。
「黙れ。告白ってなんの事だ。」
「だってシュート、告ろうとしてたんじゃないのか?」
「止めろ。そんなわけないだろ。」
「だってどっからどう聞いてもそういう流れじゃん。」
「黙れ。」
「俺ずっと麻倉には近づくなって言ってたよな!俺の忠告無視するからそういう事になるんだぞ。自業自得ッ!!つか、麻倉は死刑!!」
「そんな忠告通じるか!お前がきちんと伝えてくれてたらあんな事にはならなかった。」
「シュート鈍すぎ。麻倉の事にしても、八神さんの事にしても。」
「黙れ。」
「さっきから"黙れ"ばっかだな。口癖酷すぎ。」
「…」
「しっかしさ、実はシュートって超乙女なのな?」
「ふざけるな。誰が乙女だ!」
「んー?シュート。…で、告白の仕切り直しはいつするんだよ。」
「だから告白じゃ…」
「素直になりなさい、シュートくん。」
「お前なぁ…」
「いやー、でも八神さんもバカだよな。毎回毎回タイミング悪いって、あの人。待ちに待ったシュートからの告白聞き逃すとか。」
「颯斗、お前しつこい!…しかも待ちに待ったとか、訳分からない事言うな。」
「ホント鈍感。つか、昨日の八神さんの慌てっぷりは半端なかったぞ。そりゃ慌てるよな、喧嘩した挙句シュートは八神さんより麻倉選んだんだからさ。ホント、なんかシュートも八神さんも可愛いよなぁ。」
颯斗が何を言ってるのか分からない。
帰り支度を終えて、颯斗とは店の前で別れた。
多分、折戸さんが居てくれているとは思うが、心配だ。
俺は、八神の所に行く事にした。
どうしようもないモヤモヤした気持ちは、八神の顔を見たら少し落ち着くような気がした。
ともだちにシェアしよう!