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第32話
折戸さんは不服そうに俺を見た。
多分、折戸さんを苦手な理由はそれだけじゃないと思う。
折戸さんに抱いている気持ち…
認めたくない…
羨ましいと思っているなんて…
まるで俺が八神を…
俺は、この期に及んでまだ認めたくはない。
認めるのが怖い…
「黒木君、どうぞ?」
「ありがとうございます。」
折戸さんから水を受け取ると、折戸さんは小さく笑ってから隣に座った。
「黒木君、総一郎が迷惑をかけていませんか?」
「特には…たまにしつこくて腹立つ事はありますけど…」
俺の言葉に折戸さんが苦笑した。
「でしょうね。総一郎自身も、きっと戸惑っているのだと思います。なにせ、初めての経験でしょうから…」
「…」
「黒木君、総一郎を嫌わないでやってくださいね。…彼、とても楽しそうなんですよ。あんなに楽しそうな総一郎は初めて見ました。」
またモヤモヤした。
そんな事は折戸さんが言う事じゃない。
過保護にも程がある。
「…」
「今日は泊まろうと思っていましたが、貴方が来てくれたので安心です。総一郎を任せてもいいですか?」
「え?…」
「今日は颯斗君と外食の約束をしていたのですが、キャンセルをしてしまったので…。颯斗君がとても落胆た様子でしたので、少し心配なのです。わざわざ貴方に言う事ではありませんが、颯斗君はとても淋しがり屋でしょう?」
「そうですね。でも俺、折戸さんみたいにココの事はよく分からないですし、看病とかした事ので役に立たないと思いますけど…」
「貴方はただ、此処に居てさえくれるだけでよいのです。それだけで総一郎は喜ぶと思いますし、なにより一番の薬になるのではないかと…」
「でも…」
「簡単ですが、キッチンに私が食べようと思っていた炒飯がありますので、お腹が空いたら食べてください。…あと、お鍋にお粥があるので、総一郎が起きたら食べさせてあげてくださいね。」
「え、あ…」
「では、よろしくお願いしますね、黒木くん。おやすみなさい。」
「って、折戸さん!」
折戸さんは間髪入れずにそう言って帰って行った。
正直困った。
看病なんてした事がない。
困りながらも八神の様子を見に寝室へ向かった。
寝室に入りベッドに近づくと、八神の寝息が聞こえた。
息が少しだけ荒くて、苦しそうだ。
熱がまだ高いのかもしれない。
ベッド端に座って、八神の額に触れるとまだ結構熱くて額には汗が滲んでいた。
サイドテーブルには洗面器とタオルが置いてあった。
タオルを絞り、そっと額の汗を拭いた。
八神の寝顔は苦しいながらもやっぱり綺麗だ。
この顔を折戸さんにも晒していたのかと思うと複雑に気分になった。
「…無防備すぎるだろ、お前。」
そっと頬を撫でると、その手にスリッと擦り寄ってきた。
「腹立つ…」
ただ、ウザいだけの存在だった。
なのに、今は寝顔一つで俺を欲情させる存在になった。
胸がドキドキうるさくて、身体が熱い…
俺は今、病人の八神相手に不謹慎だが欲情している。
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