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第5話

蹴人と出会うまでは啓が日本へ来た時は啓が中心の生活を送っていた。 今の俺は何事も仕事以外は蹴人が中心だ。 蹴人との関わりは生活の一部になっている。 そのような扱いの変化を啓は敏感に感じ取ったようだ。 「嫌だ、総兄さまの部屋がいい!」 「啓、我が儘を言わないで?」 「じゃぁ、総兄さまもホテルに泊まってくれる?」 「俺は仕事があるから泊まれないよ。」 「なら総兄さまの部屋に行く!一人は怖いもん。」 「啓が眠るまでは一緒に居てあげるから分かって?」 「…約束だよ?」 「約束するよ。」 啓は極度の怖がりであり、とても甘えん坊だ。 明るい部屋で、心を許した者が側に居ないと眠れない。 啓に会うのは三年ぶりだけれど、内面の変化が見られない弟に、兄ながらショックを受けた。 「あ、総兄さまにお土産沢山あるんだよ?ママがね、色々持たせるから大変だったの。」 「義母さんは元気にしているかい?」 「うん!総兄さまが全然帰ってこないからとっても心配してるよ。」 今でこそ義母を家族だと思えるものの、若い頃の俺はそれを受け入れられずにいた。 所詮は愛人から妻に成り上がっただけの女だと思っていた。 恋愛に淡白であったのは、今思えば父の浮気に悩む母を見てきたからではないかと思う。 因果関係はないけれど、身体の弱い母の死期を早めたのは父の浮気が原因だと思っている。 父が母の死に目に間に合わなかったのは、愛人と密会していたからだと心無い大人が話しているのを聞いた事がある。 正常な愛し方というものが分からない。 けれど、俺は愛され方ならばよく分かっている。 どのように振る舞えば好印象を与えられるのかを、俺は知っているのだ。 そのようにして上手く、ズル賢く生きてきたのだ。 しかし、本当に愛されたい人には通用しなかった。 「そうなのかい?では、今年は帰れるように努力するよ。」 3年間実家に帰っていない。 あの人と義母と啓が揃うと疎外感を覚える。 もしも啓が生まれていなければ、会社を継ぐ事もなく、あの人とは疎遠になっていたかもしれない。

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