義母は、自分の息子でもない俺に良くしてくれた。 それは、啓が生まれてからも変わらなかった。 俺が、義母からの愛情を素直に受け入れられるようになったのは啓が生まれてからだ。 「うん、楽しみにしてるね！ママがね、総一郎さんに悪い虫がついていないかしらって毎日言ってるよ。」 「悪い虫？」 「総一郎さんにはとても可愛いらしいお嫁さんでないとって言ってたもん。」 「あはは、義母さんらしいね。」 実に義母らしい… 愛情か、罪悪感か…どちらなのかは分からない。 わざわざ詮索するつもりはない。 どちらの感情も含まれているのだと思う。 ホテルに着くと、一先ずルームサービスを取り、啓のお腹を満たした。 啓がお風呂に入っている間にバルコニーに出て蹴人に電話をかけた。 最近は、数回のコールで出てくれるようになった。 「なんだ…」 蹴人は今日も安定した不機嫌さだ。 不機嫌でも構わない。 出てくれさえすれば… 「こんばんは、蹴人。仕事が終わったのでね、君の声で癒してもらおうかと思ってかけてみたのだけれど…」 啓の世話も仕事のようなものだ。 疲れていた事も事実だ。 心苦しい気分になるのは何故だろうか。 「よくもそんな小っ恥ずかしい台詞吐けるな。」 「本当の事だよ。君と話をしていると時間がなによりも癒される。」 「黙れ。シャワー浴びるから切るぞ。」 「酷いなぁ。もう少し付き合ってくれてもよいのではないかい？」 「甘ったれるな。」 「今日は折角君に会いに行ったというのにも関わらず、折戸に邪魔をされてしまったのでね、蹴人不足なのだよ。だから、ね？もう少しだけ…」 蹴人の言葉通り、俺は甘えているのかもしれない。 口では拒否をするけれど、最終的に受け入れてくれる寛大な蹴人に甘えている。 それくらいの事は、自分でも分かっているのだ。 「…」 「蹴人、もう少し…いいよね？」 「つか、お前仕事中に来るな。毎回毎回折戸さんが大変だろ。」 「…俺と話をしているというのに折戸の話かい？」 「…」 つまらない嫉妬だ。 折戸に嫉妬を抱く日が来ようとは… 俺が余計な事を言ってしまうせいでもあるのだけれど、蹴人はすぐに電話を切りたがる。 不足している… 今のままでは満足できない。 早く… 早く満たして… 安心させとほしい… 「俺はね、君の事になると冷静さを失ってしまうらしくてね、折戸にも注意をされたよ。今も、恥ずかしながら折戸に嫉妬している…」 お風呂から上がった啓が部屋の中で俺を探している様子が見える。 残念だけれど、切らなければならないようだ。 「くだらない事ばかり言ってるとマジで切るぞ。」 「本当の事なのだけれどね。残念だけれど、今日は切るよ。…おやすみ、蹴人。」 「とっとと寝ろ。」 蹴人との電話を切って、部屋に戻ると不安になったのだろうか、泣きつく啓をそっと抱きしめた。 啓をあやしながら、添い寝をして寝かしつけるだけのつもりが、俺もそのまま眠ってしまった。