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第9話

目が覚めたのはそれから一時間くらい経った頃だ。 瞼と身体が重い… 上体を起こして手にしたのはスマートフォンだ。 時計は6時を指している。 早朝であったし、迷惑ではないかとも考えたが、いてもたってもいられずに蹴人に電話をかけた。 「…蹴人?」 「…」 電話が繋がった。 蹴人の返答はない。 けれど、繋がったという事に少なからず安堵した。 「良かった。何かあったのではないかと心配していたのだよ。良かったよ、君が無事で…本当に…」 俺は今、とても情けない声を発しているのだろう。 「俺だって暇じゃない。毎回毎回お前の電話に付き合ってなんかいられない。」 暫くしてようやく聞きたくてたまらなかった愛おしい声を聞くことが出来た。 その声は相変わらず不機嫌であったけれど、それでも構わなかった。 「ねぇ蹴人、君に会いたい…」 「無理だ。」 「これはまた、…随分と即答だね…」 思わず溜息をついた。 「レポートの締め切りが近い。…だから無理だ。」 「そう。…ならば学業は優先しなくてはならないね。レポートを提出し終えてからで構わないよ。連絡をもらえるかい?」 「俺が連絡するとでも思ってるのか?…おめでたいヤツだな。」 その言葉に、自分でも驚く程のダメージを受けた。 疲れているせいなのかもしれない… 眠っていないせいなのかもしれない… このような言葉に傷つくだなんて、だらしなくなったものだ。 会社で今の立場になってから、俺は強くなった。 そう思っていた。 そう簡単には屈さない為に… 強くなった筈だった。 他者の発言に対しいちいち傷ついていては、とても務まらない。 自分と会社の為に、強くならざるを得なかった。 それなのに、たったそれだけの言葉で簡単に傷ついてしまうだなんて… 「おめでたい…ね。そうでもないよ。手強いとは思っていたのだけれど、俺も流石にめげてしまいそうだ…」 「なに言ってんだ。意味が分からない…」 「…」 傷ついたように見せてはいけない。 余裕などあるわけがないのにも関わらず… 「…切るぞ。」 さらに追い打ちをかけたのはあまりに素っ気ない返事だ。 今までならば、返事を返してくれるだけで幸せだと感じていた… でも、今日は余裕がないせいなのだろうか、その言葉がストレートに突き刺さった。 「また、連絡するよ。」 「…」 「レポート、あまり今詰めてはいけないよ?」 もう、潮時かもしれない… そのような事を考えてしまう程に、俺は弱っていた。 電話など… しなければ良かった… そう思った瞬間に電話が切れた。

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