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第12話
俺の表情は笑われてしまう程に酷いらしく、そのような顔を見られてしまったのだと思わず苦笑した。
「…最近、あまり眠れていなくてね…少しだけ膝を貸してくれるかい?…」
正直自分でも驚いている。
横のベッド端に腰を下ろした蹴人の太腿に頭を乗せて、甘えているのだから…
このような甘え方は母にさえもした事がない。
産まれて初めての経験だ。
「お、おい、許可した覚えはない。」
「…嫌ならば、振り落としてくれても…構わないよ…」
「…好きにしろ。」
「では…このままでいさせて…」
当然、蹴人も驚いたような表情をしていた。
戸惑っているようにも見えた。
でも仕方がない事だ。
こんなにも心地良い…
肌を触れ合わずとも、蹴人の暖かさと息遣いが身近で感じられた。
安心して甘えられるのはそのせいかもしれない。
そこは規則的に波打って、俺の眠気を誘った。
何日かぶりの蹴人…
もう少し見ていたい…
もう少し…
そのような事を思いながら意識が遠退いていった。
「おい、いい加減起きろっ!!」
聞き慣れた大きく乱暴な声が耳元で響いてゆっくりと目を開いた。
ここ数日間、ずっと待ち焦がれていた蹴人の居る朝だ。
「………んッ…」
久しぶりにだいぶ眠ったようで喉がいがらっぽく、声枯れをしていた。
痛みはないので、風邪というわけではないと思う。
「…おはよう、蹴人…」
「おはようとかそういうのはいいから、とっとと退け。いい加減身体が痛い。」
「一晩中、こうしていてくれたのかい?」
「…文句あるか。」
「まさか。文句などある筈がないよ。…ふふ、嬉しいよ…」
俺は昨夜と変わらず、蹴人の膝の上に居た。
多分蹴人は眠らずにこのまま…
そう思うと嬉しくて仕方がなかった。
俺はと言えば、大分頭もスッキリして心なしか身体も軽い気がする。
ゆっくりと上体を起こすと蹴人が伸びをした。
「シャワー借りる…」
「シャワー?…では、俺も一緒に入ろうかな。」
「は?なんで俺がお前と入らないといけないんだ。…嫌だからな。」
「そう言わないでよ。」
「ついてくるな。」
昨日触れられなかった分、少しでも触れていたい。
その為、直接肌に触れる事が可能なシャワーは外せないのだ。
溜息をつき、嫌そうな顔をする蹴人の後ろを歩き、洗面所へと向かった。
蹴人の隣に並び歯ブラシを手にした。
チューブを絞り、歯磨きをブラシに付けて、チューブを蹴人に渡した。
二歯みがきを済ませ、顔を洗う蹴人の横で髭を剃った。
「先に入るぞ。」
黙って入ってくれて構わない。
しかし、蹴人は必ず何をするにも声を掛ける。
その余所余所しさが俺を不安にさせる。
蹴人は俺を他所に、服を脱ぎ浴室へと消えてしまった。
床には脱ぎ散らかった服があり、苦笑しながらもそれらを拾い集め、服を脱いでから浴室へと入った。
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