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第14話
なぜこんなにも拒まれているのかが分からない。
蹴人の肩口に顔を埋めて、昨日の薄くついた痕に被せて吸い上げた。
「…ッん、ふ…ぁ…」
少しずつ声が甘くなり始めてはいるが、どこか上の空のようにめ見える。
一体何を考えているのだろうか…
俺に触れられながら、何を…
不安を隠すように笑みを浮かべた。
「ふふ、気持ちが良いのかい?…随分と反応しているようだけれど…」
「…いちいち、言う…ン…ん…止め…ッ…」
蹴人の集中力を削いでいるものが許せない…
俺に触れられているという事を思い知らせるようにわざと恥ずかしがるような事を口にした。
蹴人の胸元に唇を這わせて、その胸に俺の唇が這った事を示す痕を残した。
これでもかという程に…
こうした後に舌先で突起を掠めながら乳輪をなぞらると、一際声が甘くなる事を俺は知っている。
それなのに…
やはり今日の蹴人は上の空だ。
焦りばかりが募る…
「今日は、いつも以上に抵抗するのだね…」
「…別に。今までも今も、俺は望んで受け入れた事なんて一度もない。」
疲れというものはろくなものではない…
心ばかりが狭くなる。
このような状態で、昨日蹴人と会おうなどと考えた俺が悪い。
蹴人から離れると、蹴人が壁伝いに崩れ落ちた。
もう、遅いだろう…
気づかれてしまっているのかもしれない…
俺が、今この上なく醜い顔をしている事に…
自分でも想像が付く程に醜い…
心が醜いのだから、表情も醜いものに違いない。
俺は、それを隠すかのようにシャワーを出し、立ち込める湯気に隠れるように浴室を出た。
身体を軽く拭いて、バスローブを羽織り、リビングに向かった。
髪からはポタポタと雫が落ち、床を濡らした。
「…なんて…大人気ない…」
ソファーに身体を沈めて深い溜息をついた。
気分も先程よりは落ち着いている。
暫くして、蹴人の気配を感じたが、足音は次第に遠退いていった。
このままでは蹴人が帰ってしまう。
帰したくない…
声もかけられないまま玄関の扉が鈍い音を立てて閉まった。
もうこれで終わりなのかもしれない…
そのような予感すらもしていた。
蹴人が部屋を出て行ってからどれくらいの時間が経ったのだろうか…
俺は何も出来ずにそのままの状態でソファーに座っていた。
これから仕事がある。
なかなかやる気が出ない。
これではまるで子どものようだ…
しっかりしなくては…と重い腰を上げて立ち上がった。
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