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第15話
玄関で物音が聞こえた気がした。
まさか…と期待をしつつ玄関に向かうと丁度折戸がスリッパを履いていた。
「…なんですか、そのあからさまにガッカリしたような顔は…」
「…ガッカリしているように見えるかい?俺もまだまだという事か…。それよりも折戸、連絡も無しに一体どうしたというのだい?」
「どうしたもこうしたもありませんよ。昨日はあのような疲れ切った状態でしたので、様子を見に来たのです。」
「折戸、君は相変わらず俺に過保護だね。」
「貴方、どの口が言ってるのですか?」
「なぜだろうね、今日はいつにも増して君の言葉が胸に刺さる…」
「自己管理のできない社長の秘書は本当に大変なのですよ?貴方、分かっているのですか?無理にでも厳しい事を口にしなくてはならない私の身にもなってもらいたいですね。」
「そうだね。君の言う通りだ…」
「おや、認めるのですか?」
「認めるというよりかは…ダイレクトにダメージを受けそうなのでね、どちらかといえば回避…かな?」
誰になにを言われても、全てをそのまま受け入れてしまいそうなくらいに弱っている。
聞き流せる筈の折戸の毒さえも、そのまま受けてしまいそうで、受ける前に守りに入ったのだ。
蹴人の言動にいちいち振り回されて…
俺らしくもない…
いや、そのような事は今更なのかもしれない。
蹴人を見つけてからの俺はいつだってらしくない。
余裕なフリですら気付けばできなくなっていた。
「とりあえず貴方は着替えてきてください。私は朝食を作りますので。その様子だとまだ何も口にしていないのでしょう?」
「折戸、まさか君はこの部屋に盗聴器や監視カメラを取り付けているんじゃないだろうね?」
「心配なのでそうしたいところですが、流石にそこまで暇人ではないので。」
「そうか、安心したよ。」
「まったく、情けない顔を晒していないで早く着替えてきてください。」
折戸の手が伸びて、俺の頬を掠めた。
俺はその指先に甘やかされてばかりだ。
そして、それをいい事に甘えてばかりいた。
その指先が…
折戸の存在が唯一の拠り所だった。
けれど、今は少し素直じゃないところもあるけれど、可愛らしくて、愛おしくて、大切な存在がいる。
大切だと思っているのは多分俺だけだろうけれど…
その存在は俺を喜ばせる事も傷つける事も上手い。
だからこそ、彼は俺にとってとても特別なのだ。
俺の周りには居ない…
特別な存在なのだ。
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