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第16話

俺はいつもならば甘えてしまうその指を避けてクローゼットのある寝室へと向かった。 寝室で着替えていると携帯が鳴った。 「もしもし?」 『うわーん、総兄さまぁー。』 そろそろだと思っていたけれと、啓がホームシックにかかった。 いつもはアルベルトくんが居るおかげで軽度で済んでいるけれど、今回は頼みの綱のアルベルトくんが不在だ。 おまけに俺も忙しくて構ってあげられていない。 重度と言ってもいいだろう。 折戸が早めに来てくれて助かった。 頭の中では啓と話しながらも今日のプランの変更が始まっていた。 午前中に啓を拾って女性の秘書の三枝さんに啓のお守りを任せるという項目をプラスした。 できる事ならば三枝さんの迷惑にならずに済む事が一番いいに決まっている。 俺は着替えを済ませると急いでリビングに戻った。 「折戸、悪いけれど先に出るよ。啓から連絡があったのでね…」 「…いつものアレですか?」 「そう、恒例のホームシックだよ。」 「…まったく、このタイミングでですか?八神家は彼を甘やかしすぎですよ。」 「まぁまぁ、そう言わないで、折戸。」 確かに折戸の言う通りだ。 俺は啓を甘やかしすぎた事を今になって後悔している。 「…アルベルトさんを恨みそうですよ、私は…」 「とりあえず、俺と折戸は会社で合流という事でいいかな?…あと、三枝さんに啓のお守りを頼む事になる、少し早めに出勤できるかどうか確認の連絡をしておいてもらえるかい?」 「承知しました。」 「頼んだよ、折戸。」 俺は折戸を残したまま部屋を出た。 車でホテルに到着すると部屋へと急いだ。 「総兄さまーッ!!」 部屋に着くなり飛びついてきた啓を受け止めた。 「啓、折角来てくれたのにあまり構ってあげられなくてごめんね。」 「総兄さま…僕、淋しくなっちゃって…ごめんなさい…」 心を鬼にしなくてはならないと分かってはいても、可愛い弟が相手だ。 甘やかしてきた分、突き放し方が分からない。 ましてや、謝られてしまっては、突き放そうにも突き放せなくなる。 「啓、離れなさい。もう大学生になるのだから、恥ずかしいよ?」 諭すように言うとゆっくり啓から離れた。 「ヤダっ!」 再度啓が抱きついてきた。 困った… どうしたものか… 「啓、聞き分けないのならば帰らせるよ。」 言ってしまってから後悔した。 でも、後悔してももう遅い。 一度口から出てしまった言葉は、もう取り消せないのだから…

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