147 / 270
第24話
何日が経過しただろうか…
目まぐるしく過ぎていく日々…
心が、彼を恋しがっている。
しかし、会う勇気もない。
冷たくあしらわれる事は目に見えている。
日が経てば経つ程に会いづらくなっていく。
逃げ腰になるだなんて、歳のせいだろうか…
この数日、啓は日本での生活に慣れ、今では一人で電車に乗り、観光をし、会社まで顔を出す事ができるようになった。
三枝さんにすっかりと懐いてしまったらしく、俺の仕事が終わるまでの間三枝さんの仕事を手伝うようになった。
最近では我が儘も少なくなったように感じる。
やはり、折戸に任せて正解だったようだ。
生活にゆとりができた事は確かだ。
けれど、そのゆとりが俺を苦しめる。
俺の生活から抜け落ちた蹴人という存在…
このまま俺達は、なにも無かった事になってしまうのだろうか…
車を運転しながらそのような事を考えていた。
「…ぇ…ねぇってば、総兄さま聞いてる?」
「…どうしたのだい、啓。」
「もー、やっぱり聞いてない!!」
「…ごめんね、啓。少し考え事をしていてね…」
「あのね、総兄さま。僕ね、そろそろ帰ろうかと思ってるんだ。昨日パパから電話があってね、出張から帰って来るんだって。」
啓が少し照れたように言った。
「…そう、あの人が電話をね…」
たかが出張から戻るくらいで…
母が亡くなってからも、それ以前も、俺はあの人からそのような電話などをもらった事がない。
これではまるで、俺があの人に愛でられる啓に嫉妬し、自分も愛でられたいと願っているみたいではないか…
馬鹿馬鹿しい…
「総兄さまは、相変わらずパパを"あの人"って言うんだね…なんか、淋しいなぁ…」
啓の前では形だけでも"父"と呼ぶべきであるという事は理解している。
しかし、あの人を"父"であると思うだけで気分が悪くなる。
ビジネスであると言うのならばまだしも…
「啓が淋しがる必要はないよ。」
「うん、そうなんだけど…」
「話がそれてしまったね。啓は俺に話があるのではなかったのかい?」
「あ、うん。あのね、アルがね…パパの出張に一緒に行ってて、パパが帰ってくるってゆう事はアルもね…帰ってくるでしょ?」
アルベルト君は随分と啓を手懐けたものだ。
「…啓は、早くアルベルト君に会いたいのだね。」
「…ッ…ち、違うよッ!!ぼ、僕が居ないとアルの仕事がなくなっちゃうでしょ?だから早く帰ってあげないとでしょ?」
「ふふ、そうだね。アルベルト君もとても喜ぶのではないかな。」
啓は照れながらも嬉しげにアルベルトくんの話をした。
そんな啓に自然と笑みが溢れ、綺麗な金色の髪を撫でた。
啓は身をすくめて気持ちよさそうにしていた。
啓はとても素直で可愛らしい…
もしも、蹴人がこれ程素直であったなら…
想像をしてみたけれど、上手く思い浮かべる事が出来なかった。
ふと横目が蹴人の働いているカフェを捉えた。
会いたい…
声が聞きたい…
思い切り甘やかしたい…
触れたい…
押し殺していた気持ちが溢れてしまった。
ともだちにシェアしよう!