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第25話
ふと横目が蹴人の働いているカフェを捉えた。
会いたい…
声が聞きたい…
触れたい…
思い切り甘やかしたい…
押し殺していた気持ちが溢れてくる。
会社に到着し、いつも通り啓を三枝さんに預けた。
部屋に入ってスーツを脱いで掛けると折戸が形ばかりに頭を下げた。
「おはようございます。」
「おはよう、折戸。」
「早速で申し訳ないですが、毎回毎回なにかと嘘をついて貴方を呼び出す嘘つき社長の秘書の方から連絡をいただきました。」
「折戸、口が悪いよ。」
「口が悪くもなります。」
「…しかし、音羽社長か…」
「えぇ。内容もいつもと変わらず馬鹿の一つ覚えのように…」
「ウチの社員が先方を怒らせて…といった内容で間違いないかい?」
「毎回の事ですから問題はないかとは思いますが…」
「そうだね。例え嘘であれ、俺が出向く事でお怒りが収まるのであれば、俺はいくらでも出向くけれどね。」
「人が良いですね、貴方は。」
「それも大切な仕事だからね。」
「では、そのように伝えます。」
折戸が再度頭を下げて部屋を出た。
正直に言ってしまえば、音羽社長は苦手だ。
舐め回すような視線も、ベタベタと触れてくる手も、生理的に受け付けない。
しかし、万が一にも本当に失礼があったのだとしたら…
その万が一に対応するのが俺の役割なのだと思っている。
万が一を甘く見過ごす事は身を滅ぼす。
俺は深い溜息をついて、掛けたばかりのスーツに袖を通した。
「すぐに出られますか?」
ノック音の後に扉が開いて折戸が言った。
「出られるよ。行こうか。」
俺は折戸の車に乗り込み会社を出た。
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