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第26話

これから始まるであろう、苦痛な時間を思うと憂鬱になる。 到着してからすぐに通されたのは、はやり社長室だった。 そして、目にした音羽社長の満足気な顔… 人を小馬鹿にしたような顔だ。 そのような相手に愛想笑いしかできない自分が悔しい。 耐えに耐えた2時間俺はやっと解放された。 車に乗り込むと、一気に疲れが押し寄せた。 「お疲れ様でした。私が貴方の立場だったら殴ってましたよ。」 折戸が俺の代わりに悪態をついた。 「俺は折戸の立場であったならば手を出していたかもしれないよ。」 「社長が堪えているのに秘書が殴ってしまったらもともこもないですよ。」 「確かにそうだね。………ねぇ、折戸…」 「はい。」 「………蹴人に…会いたい…」 気がつけばそのような事を口にしていた。 「嘘つき社長に我が儘社長ですか。困りましたね。まったく、世の中にはろくな社長が居ない…。しかし、その無理を聞き入れ、調整するのが私の勤めです。」 折戸が車を路肩に止めて電話をかけ始めた。 「颯斗君、今大丈夫ですか?」 電話の相手は新見君のようだ。 折戸の声が先程まで毒づいていたとは思えない程穏やかだ。 「…」 「今仕事で颯斗君の大学の近くまで来ているのですが、颯斗君と黒木君の都合がよければ拾って帰ろうかと総一郎と話していて…」 新見から返答があったのか折戸が少し渋い顔をした。 「そうですか。それは残念ですね…分かりました。では5分後に迎えに行きます。えぇ、では。」 折戸が電話を切り、困ったように首を振った。 折戸のその行動で蹴人は来ないのだと悟った。 避けられて当然だ。 当然だと分かっていても、傷つく。 思わず大きな溜息をついて項垂れた。 「…はぁ…だいぶ、嫌われてしまったようだね…」 「止めてくださいよ、だらしがない。」 折戸がエンジンをかけると車が走り出した。

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