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第27話

折戸が大学の前で車を止めるとすぐに新見君が乗り込んできて、車が走り出した。 「壱矢さんただいまー。あ、八神さん久しぶり!ごめんな、シュート連れて来れなくてさ。」 「気にしなくてもよいよ。仕方のない事だからね。」 「…ちょっと心配なんだよな。うっかり壱矢さん優先しちゃったけど、麻倉とシュートを二人にしとくのはまずったかも。やっぱ強引にでもシュート連れてくればよかったかな…」 新見君が心配そうに言った。 麻倉… 当然ではあるが、蹴人の交友関係までは把握していない。 新見君の様子から有害な存在なのだと判断した。 「折戸、止められるかい?」 「え、今ですか?少し難しいですね。」 俺も運転をする身だ。 この場所で車を止める事が難しい事くらいは理解している。 しかし、妙な胸騒ぎがして仕方がなかった。 「新見君、麻倉という人は一体何者なのだい?」 「八神さん声声、そのトーンなんか超ヤベェから。麻倉ってのはシュートに付き纏ってる害虫だな。アイツ絶対シュートのケツかチンコ狙ってるから。」 「颯斗君、下品な言い方はやめなさい。」 「うぅ…じゃー何て言うんだよー。」 「新見君、蹴人の家を教えてもらえるかい?…とても嫌な予感がする…」 「いやいや、流石にそれはマズいって。シュートに怒られる。シュートあんま家に人入れたがんないし、教えたがらないからな。…だから麻倉を入れる事もないと思うけど。」 しかし、今はそのような事を言っている場合ではない。 悪い勘というものは大抵あたるように出来ているものだ。 例え何もなかったとしても、蹴人がベタベタと触られるのかと思っただけでどうにかなってしまいそうだ。 「なにかがあってからでは遅いッ!!」 自分でも驚いた。 今迄出した事のないような荒々しい声が出たからだ。 折戸が何事かと振り向いた。 「八神さん落ち着けって。麻倉もいきなり襲うとかはしねぇと思うし、シュートだってガキぢゃねぇし対処くらい自分でできると思うし。」 新見君は意外にも冷静だった。 恥ずかしさが襲ってくる。 いい歳をして、取り乱すだなんて… 「………新見君、ごめんね。少し取り乱してしまって…」 「…八神さんもそういう余裕ない顔すんだな。」 「え?」 「なんか、超必死って顔。」 新見君が身を乗り出して俺を覗き込んで言った。 あまり見ないでもらいたい… このような姿を見られるのは… とても恥ずかしい… 「颯斗くん、それ以上は止めておきなさい。」 折戸がそう言うと新見くんが俺から離れた。 俺の頭の中は蹴人の事で埋め尽くされていた。 「八神さん、ごめんな。…きっとさ、シュートも悪いんだと思う。だから友だちとして先に俺が謝る。」 「新見君が謝る事ではないよ。」 「シュートさ、多分怖がってんだよ。八神さんみたいなヤツ初めてで、どうしていいか分かんなくて、戸惑ってるんだと思う。」 「…」 「だからさ、待っててやってくんねぇか?ちゃんと答え見つかるまでさ。大丈夫、シュートはなにも考えないで無かった事にするようなヤツじゃない。俺が保証する。」 「まったく、総一郎よりも颯斗君の方が大人ですね。」 「…本当に、困ったね。」 年下の新見君に口にした言葉はもっともで、自分が恥ずかしくて仕方がなくなった。

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