151 / 270

第28話

新見君の言っている事は正論だ。 確かに俺は急ぎ過ぎている。 自分の事しか考えていなかったのかもしれない。 けれど、気持ちは押さえられない。 今にも爆発してしまいそうだ。 このままではいけない。 コントロールしろ… 「…新見君、蹴人が行きそうな場所に心当たりはあるかい?」 コントロールなど、できる筈がない。 もう、理屈ではどうにもならない。 「諦め悪いな、八神さんも。…シュートの行きそうなとこねぇ…。バイト先とか、コンビニとか…一緒に居る時はともかく、普段のシュートの行動は俺もよく分かんねぇんだよな。」 「…なるほど、バイト先ね。…折戸、向かってくれるかい?」 「…分かりました。今の貴方は拒否しても聞き入れないでしょうからね。それに、仕事が手につかずにウダウダとされてもたまりませんし。」 折戸はそう言うと蹴人のバイト先に車を走らせた。 「八神さんさ、考えすぎだって。あのシュートだぞ?そう簡単に足開くタイプじゃねぇって。まぁ、突っ込む方に関しては別かもだけどな。」 「こら、颯斗君。」 そのような事は当たり前だ。 簡単に許されてしまってはたまらない。 俺は無意識に強く拳を握りしめていた。 俺でさえ蹴人と行為に至るまでに毎回苦労する。 甘やかして、甘やかして… その顔が溶けるまでしつこいくらいにキスをして… ゆっくり触れて… その結果の行為なのだ。 もしも麻倉という男が俺と同じように蹴人に触れたとしたら、蹴人は流されてしまうのだろうか… 麻倉という男に甘やかされたら、許してしまうのだろうか… 曖昧な関係だからこそ、自信が持てない。 俺がこのような感情を巡らせている事に折戸はもちろん、新見くんも気づいてはいないだろう… いや、知られたくはない… こんなも醜いく汚い感情は誰にも触れられたくない… 蹴人は本当に可愛らしくて… 愛おしくて… そして、俺の心を乱すとても危険な存在だ… 「八神さんってさ、意外とヤキモチ焼きだったりすんの?」 「ヤキモチ…どうだろうね。」 「総一郎はまともに恋をした事がないですからね。黒木君と同じく戸惑っているのですよ。」 「へー、似た者同士ってわけか。」 「お互いに煮え切らないわけですよ。」 「えー、八神さんなんて煮えすぎて形なくなっちゃってそうだけどな。」 「総一郎の場合、いつまでも煮えずにイラつかせるニンジンといったところでしょうか。」 「酷い言われようだね…」 確かにこんなにも焦がれているのにいつまでも煮え切らないのは、俺の方かもしれない。 俺達には障害が多すぎる。 例えば年の差… 蹴人と出会ってから何度思っただろうか。 そして、俺の立場… もしも特別な関係になったとして、俺は彼を守りきれるのだろうか… 考えれば考える程に先の見えない迷路に迷い込んだような感覚に陥った。

ともだちにシェアしよう!