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第29話

ヤキモチ… そのような可愛らしいものではない。 もしも蹴人を俺から奪うような事をされたら、その時は… 辿り着いた答えは人としてあるまじきものだった。 「総一郎、すみません、どうやらこの先は渋滞のようです…」 折戸が申し訳なさそうに言った。 「仕方がないよ。折戸のせいではないのだし、君が謝る事でもないからね。此処からならば然程遠くもない筈…降りるよ。」 「え、降りるって…」 「壱矢さん、ムダムダ。もう八神さん色々見えなくなってるし。」 「まったく…困った人ですね…」 俺は辺りを確認してから扉を開いて車を降りて走った。 こんなにも走ったのはどれくらいぶりだろうか。 やらなくてはならない仕事が山程ある。 このままではまた折戸に迷惑をかけてしまう。 申し訳ないと思いつつも止められない。 普段から身だしなみにはとても気を遣っている。 それなのにも関わらず、スーツの乱れも、髪型の乱れも気にせずに走っている。 苦しい… 息があがる… 今、俺の身体を突き動かしているのは、蹴人を一刻も早く麻倉という男から引き離したいという気持ちだけだ。 そのような気持ちが俺を走らせているのだ。 先に蹴人歩いている姿が見えた。 遠目でも分かる。 俺が蹴人を見誤る筈がない。 さらに加速すると、距離がある程度縮まった。 そして、ようやく俺は気づいた。 俺の他にも、蹴人を追うようにして歩いている人物が居る事に… この男がおそらく… 直感がそう言っている。 彼が蹴人の腕を掴んで引き寄せた。 今、俺は醜く歪んだ顔をしているのだろう。 ふと彼と目が合った気がした。 次の瞬間には、蹴人と彼の唇が触れていた。 彼とは目が合ったままだ。 お互いに離せないといったところだろうか。 身体は熱くなるっていくが、それに反して溢れ出た汗は妙に冷たく感じた。 俺の目の前で… よくもやってくれたものだ… 怒りが込み上げてくる。 いや、怒りどころか殺意にも似ている。 このままでは俺は彼になにをするか分からない。 俺はそのような自分が恐ろしくなり二人に背を向けてその場を去った。

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