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第31話
ホテルの部屋へ向かうエレベーターの中で啓が目を覚ました。
「んん…そーにーさま?……」
「ごめんね、起してしまったかい?」
「んーん、大丈夫…」
「もうすぐ部屋に着くから少し我慢してね、啓。」
「…総兄さま、大丈夫?」
「ん?」
「帰ってきた時、元気なかったから…少し怖かったし…」
「…怯えさせてしまってごめんね、啓。」
思わず苦笑いした。
部屋に入り、啓をベッドへ下ろした。
「…総兄さま、あのね、明日ね、帰ろうかと思ってるんだ。」
「それはまた随分と急だね。」
「…うん、アルがね、戻ってきたって。」
「そう。…それならば、明日は空港まで送るよ。」
「三枝さんには言ったよ?凄く淋しがってた。…あと仕方ないから壱矢にも。」
「仕方ないって…。そのような事が折戸に知れてしまったら、またガミガミと怒られてしまうよ?」
「壱矢は怖いから嫌いッ!」
「それは、啓が折戸を怒らせるような事をするからだよ。少し厳しいところはあるけれど、折戸はとてもいい人だよ。」
「総兄さま、今日は寝るまで居てくれるよね?壱矢は居てくれなかった…。でもね、一人でちゃんと頑張って寝れたよ?」
「それは偉いね。」
啓の頭を撫でると啓が気持ちよさそうに身を竦めた。
「あ、でもやっぱり今日は一人で寝るね。アルに報告しないと。沢山褒めてもらうの。だから総兄さまはもう帰っていいよ?それでね、ゆっくり寝て、元気になって?」
啓に気を遣わせてしまった。
色々と思い出してしまいそうで、今日は戻らないつもりでいたのに、そのように言われてしまうと帰らざるを得なくなる。
「そうだね、そうさせてもらおうかな…」
「うん、総兄さま、また明日ね?ほら、僕シャワーするから帰って?」
啓に促されて部屋を出た。
ふと腕時計を見ると22時を過ぎていた。
帰りたい気分ではない。
しかし、飲みに行こうにも車がある為、飲酒はできない。
俺は苦笑いをして駐車場に向かい、車に乗り込むとアクセルを踏んだ。
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