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第33話

エレベーターの中に入っても手は繋がれたままだった。 蹴人の目が、とても弱々しく揺れている。 そのような蹴人は、俺の知る限り初めてだ。 俺は、その瞳に吸い寄せられるかのようにキスをした。 触れた唇はとても冷たい。 普段のキスとは少し違うようにも感じる。 冷たいからではない。 蹴人から感じていた迷いや戸惑いが感じ取れない。 都合のよい捉え方なのかもしれないが、俺を求めてくれているかのようにも感じられた。 このまま溶け合ってしまえたら…と思う程に気持ちが良い… 歯止めが利かなくなりそうで唇を離した。 手を離し、先にエレベーターを降りた。 昼間の事を思い出したからだ。 蹴人が後ろを着いてくるのを感じながら、鍵を開けて部屋に入った。 まず蹴人を温める事が先決である。 布団で包み、お風呂を沸かし、キッチンで温かい飲み物を作った。 「…」 蹴人はソファーの上で布団に包まって小さくなっている。 その姿が愛らしくて思わず目を細めた。 ホットコーヒーをマグカップに注いで、いつもよりも多めのお砂糖を入れてソファーに向かい、隣に座るとマグカップを手渡した。 「蹴人、どうぞ。」 「…ん、サンキュ。」 いつも通りの素っ気ない返事… けれど、俺はどこかホッとしていた。 蹴人は布団から手を出して、マグカップ受け取るとコーヒーを一口飲んで咳き込んだ。 「…ッな、なんだこれッ!!」 「ふふ、今日はいつもよりもお砂糖が多めだよ。疲れているようだったのでね。」 「…だとしても、コレは飲み物じゃないだろ。甘すぎて飲めない。」 確かに少し入れすぎてしまったかもしれない…と思いながらコーヒーを一口含んだ。 「温まったかい?」 「…ん。」 「そう、それならば良かった…」 蹴人の手が伸びてきたかと思うと、その手が俺のネクタイを握り引き寄せられ、唇が触れた。 唇が開き、俺は誘われるように舌を進ませた。 いつもよりも積極的な動きを見せる舌を吸い上げ、口内へと招いた。 「…ん、ンッ…は…」 蹴人からは、少し甘めの声が漏れた。 呼吸をする事さえも惜しい… 深いキスで蹴人の呼吸を奪った。 蹴人の口内がいつもよりも熱い気がするのは気のせいだろうか… そのように思った瞬間に、蹴人の体重が一気に俺にかかった。 そして、俺に凭れ意識を失った。 「蹴人?…」 名前を呼んでも返答はない。 先程まで冷たかった筈の身体は異様に熱い。 蹴人の額に掌を当てる。 やはり熱い… なぜ気づいてあげられなかったのだろうか… 自分を責めていても仕方がない。 抱き上げ、寝室へと運んだ。 ベッドに寝かせて、額を冷やす為のタオルを取りに行こうとした瞬間、蹴人が俺の腕を掴んだ。 起きているようには思えない。 「全く、君という子は…」 思わず苦笑してしまった。 愛おしさがこみ上げてくる。 俺はタオルを取りに行く事を諦めて隣に添い寝をするように身を置いた。 間近で見る蹴人の寝顔は、やはりとても可愛らしい。 それでいて、綺麗だ。 大切な宝物を扱うように抱き寄せて胸に埋めた。 そして、そのまま俺の意識も徐々に遠退いていった。

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