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第10話

至れり尽くせりっていうのは、こういう事なんだろうと思う。 「下げるのくらいやらせろ。」 「いつもはしてくれているでしょう?今日は無理をさせてしまったからね。」 「それでも、お前がやる方が多い。」 「細かい事は気にしないで、君はゆっくりと寛いでいなさい。」 そう言われたら黙るしかない。 食器洗ってるだけなのにサマになっている八神を見ると、同じ男としては腹が立つ…と思いながら、退屈な俺はずっと八神を見ていた。 暫くして、洗い物を終えた八神がソファーに近づいてきた。 「君は、本当にこのソファーが好きだね。」 「別に好きってわけじゃない。ココに居るしかないだろ。」 「いつも決まってこのソファーに居るのでね、気に入っているのかと思っていたのだけれど…」 「なんとなくだ。」 八神が小さく笑った。 「…ねぇ…蹴人、一緒に暮らしたいな…君と…」 「はぁ?なんの冗談だ。」 「俺は、どのような時でも君の事に関しては本気だよ。」 一緒に暮らす… そんな事は考えもしていなかった。 俺と八神の関係は曖昧で、そんな事を考えるに至っていない筈だ。 多分、八神は颯斗と折戸さんが同棲を始めた事に感化されたんだと思う。 「…一生言ってろ。」 「君が頷くまで何度でも言うよ。」 「黙れ。」 「何度でも言うと言っているでしょう?」 「俺には俺の生活があって、家もある。」 「知っているよ。」 「知ってるならそれ以上言うな。」 「来年、此方に弟が来るのでね、此処を弟に譲って、引っ越そうかと思っているのだけれど、その場所に君が居てくれたら…とつい考えてしまってね。」 「ろくな事考えないな、お前。」 「酷いなぁ。俺はいつも蹴人との事を考えているよ。」 「…」 「帰したくはない…このまま俺の側に永遠に居たらいいとね、そのような事ばかり考えているよ。今すぐに答えを欲しているわけではないよ。考えてみてはもらえないかな?」 別に一緒に住まなくたって、こうして会っているし、セックスだってしている。 なのに、まだ欲しがる… 八神は欲しがりだ。 これ以上、俺が八神にやれるものはない。 「無理だ。」 「即答…か、…少しは悩んで欲しかったな…」 「…少なくとも、母ちゃんと姉ちゃんのスネ囓ってるうちは無理だ…」 このまま拒否をして終わらせればいいものを、何でこんな事言ったのかは自分でも分からなかった。

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