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第11話

不思議と不愉快には思わなかった。 「一年も待てないよ…」 「…一年なんて、あっという間だろうが…」 俺の発言に八神が目を見開いた。 俺が無意識に吐いた言葉は、一年後を約束したようなそんな台詞だった。 「…君は若いからよいかもしれないけれど…」 「…年齢とか関係ないだろ。」 俺を無視して会話は続く。 変な感覚だ。 俺が話しているのに、俺じゃない他の誰かが話しているような… そんな感覚だ。 「俺には関係あるよ。…少しでも長く、君と居たい…」 「だからこうして一緒に居るだろう。」 「…足らない。」 俺よりずっと年上の八神が可愛く思えた。 余裕なくそう言った八神が凄く… こんな事を思っているのも、きっと俺じゃない。 俺の中に居る、俺とは別の誰かが思っているに違いない。 こんなのは、俺じゃない。 認めたくない。 「黙れ。」 「本当に、全然足らない…」 ホントにどうしようもないヤツだ。 俺なんかよりずっと大人だと思ってたが、八神はどこか危うい… 俺が居なくなったら八神はどうなるんだろう。 そんな自惚れた考えさえ浮かぶくらい危うい… 「バカ野郎…」 八神の頭に手を回して胸に引き寄せた。 「……蹴人?…」 「お前は黙ってろ…」 腕の中で全てを委ねてくる八神を、やっぱり俺は可愛いと思ってしまう。 俺の頭も心も全部イカれてる。 「…ねぇ、蹴人。」 「だから黙れ…」 「…はい。」 八神は俺の腕の中で大人しくなった。 たまに冷蔵庫がブンッと音を立てるくらいで、室内は静まり返っている。 八神は、最初からズカズカ踏み込んできだ挙句、足らない足らないと言って俺を欲しがる。 こんなだから、俺は八神を拒否出来ないんだと思う。 「…おい。」 「…なんだい?」 八神が顔を上げて俺を見上げた。 「…少しなら…考えてやらん事も…ない…さっきの…」 「急がなくてもよいよ。ゆっくりと考えてほしい…」 八神がこんなだから… 俺はこうしてらしくない事を口走る羽目になる。 いつもそうだ。 「…待てないだのゆっくりだのどっちだ。ホント、わっけわからないヤツだな、お前は。」 「きちんと考えて決めてほしいからね。君の意思で、俺に流される事なく…」 「…もう黙れ。」 「…」 答えなんてホントはもう決まっているんだと思う。 俺は最初から全部きちんと自分で選択していた。 でも、俺はズルいヤツだから、全部八神に流された事にしてココまで来た。 そしてココに来て何故か調子が狂った。 上手くやり過ごしてきた筈だ。 でも、それが出来なくなった。 いや、もう狂っていたのかもしれない。 最初から、きっと狂っていた。 俺がそれを認めたくないだけだ。

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