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第13話

部屋にバイブ音が響いた。 別の場所にあった思考が呼び戻されたような感覚だ。 「…」 八神がポケットからスマホを出すと、画面を見てからあからさまに嫌そうな顔をした。 「蹴人ごめんね、少し外すよ。」 八神はスマホを片手にバルコニーに出ていった。 出張前も何度かこんな事があった。 八神の感じからして折戸さんでもなさそうだし、仕事の電話って感じでもない。 「クソ、なんなんだ…」 硝子越しに見える八神の顔は凄く険しかった。 一体今八神に何が起きてんのか知りたい… 面倒な事が嫌いな俺が他人に干渉しようとする日が来るなんて思いもしなかった。 俺の中に今まで感じた事もないような何かが生まれた。 「…ごめんね、待たせてしまったね。」 戻って来た八神は勘違いかと思うぐらいいつも通りだった。 さっきまでの険しさはどこにもない。 いつもの穏やかな表情だ。 「別に待ってない…」 「ふふ、君は本当に、可愛らしいね。」 「何だ、その頭悪い発言…」 「そうかい?そのままを口にしたのだけれど。」 八神が苦笑した。 多分八神は頭良いんだろうけど、俺はどうしようもなさすぎるくらいバカな八神しか知らない。 「…お前、マジで社長なのか?実は折戸さんのダミーとかじゃないか?」 「…折戸のダミーか…なれるものならなってみたいけれどね。」 そう言った八神は少し淋しそうに見えた。 八神が隣に座ってさり気なく俺の太腿に手を乗せた。 「なんだ…」 聞かなくてもその意味くらい分かってる。 分からない程ウブでもない。 でも触られる事に慣れていない俺はどうしても緊張する。 俺の身体の緊張は八神にも伝わってるらしくて俺を見ておかしそうに笑った。 「分かっているのだよね?…」 「…分かってなんてない。 」 「そうかい?それならば…分からせてあげないといけないね…」 八神の手が内腿を撫でて、俺は溜息を吐いて観念したように力を抜いた。 俺と八神のそういう雰囲気はピンポンが鳴って壊れた。 まず頭に浮かんだのは折戸さんだ。 でも、折戸さんは今日は颯斗と居る筈だ。 「おい、出ないのか?…」 八神は、それに出るのを躊躇っているように見えた。 その間、ピンポンはしつこく鳴り響いた。 八神が珍しく盛大に溜息を吐いて、立ち上がった。 「蹴人、少しの間此処で待っておいで。すぐに戻るから…」 八神は俺の髪をそっと撫でてから玄関に行った。 変な胸騒ぎがする… 玄関から八神の声が聞こえた。 もう一つは聞き覚えがない声だ。 ただ、分かったのは… それが女の声だって事だけだ。

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