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第14話
その声が女だってだけで動揺した。
女の声と足音が近づいて来るのを感じた。
来る…
そう思った時にはもうリビングのドアが開いた。
「今日一日部屋に置いてくれるわよね、総一郎。」
その女は八神を名前で呼んだ。
それだけで二人の関係は親密なんだと分かった。
「由莉亜 -ゆりあ- 、いきなり上がり込んできて、何を言い出すのかと思えば…」
女と目が合った。
「ところで総一郎、彼は貴方の新しい使用人かしら?」
八神が由莉亜と呼んだ女は、ワンレンボブで、身長が一般的な女よりも少し高いスラッとした体型に、胸元が大きく開いた黒いシルクのドレスがよく似合っていた。
可愛いというよりは綺麗といった感じだ。
八神と並んだ姿は誰が見てもお似合いに見えた。
「由莉亜、彼は…」
「彼は随分と壱矢さんとは違うタイプね。」
「由莉亜、折戸は使用人ではないよ。」
「そうは変わらないじゃないの。壱矢さんは貴方のお世話係のようなものだもの。」
そう言ってしとやかに笑うと、女は身を屈めて俺の顔を覗き込んだ。
「由莉亜、彼も使用人ではないよ。そもそも俺がそのような人を雇うと思っているのかい?」
「…そうね、あり得ない話よね。ところで貴方、総一郎とはどのような関係なのかしら?」
一瞬戸惑った。
八神との関係は曖昧で、俺も決め兼ねている。
「…友人です。」
こういう場面の模範解答。
それが一番当たり障りない言葉だ。
「…」
チラッと八神を見る。
八神の立場の為に言った筈が、八神の表情が曇っていくのが分かった。
「お名前はなんと仰るのかしら?」
「黒木蹴人です…」
ソファーから立ち上がって軽く頭を下げた。
「黒木さんと仰るのね。私は君島由莉亜 と言うの。総一郎の…」
「由莉亜ッ!!」
八神は広いリビングを包む程デカい声を上げた。
こんなにデカい声を聞いたのは初めてだ。
その声に君島さんも驚いた様子だった。
君島さんの言葉は、八神がデカい声を出さないといけないくらい聞かれるとマズい言葉だったのかもしれない。
「驚くじゃないの。どうしたというの?そんなにも大きな声を出して。」
「…今からでもホテルを手配するよ。申し訳ないけれど、泊める事は出来ない。」
「私を泊める事に不都合があって?」
「このような言い方をしたくはないけれど、迷惑だ…」
「先程こちらに着いたばかりなのよ。泊まらせてもらうというお話は一度置いておくとして、少し休ませていただけるかしら?それくらいならば、構わないでしょう?」
「少しくらいならば、構わないけれど…」
「そう?では、そうさせていただくわ。向井、お茶の支度をなさい。」
君島さんがそう言うと、黒いスーツを来た身綺麗な男がリビングに入ってきた。
「総一郎様、お久しぶりでございます。」
スーツの男が君島さんの隣に立ち、八神に頭を下げた。
「久しぶりだね、向井くん。元気だったかい?」
「はい。総一郎様も息災のご様子で…」
「由莉亜が我が儘を言ってはいないかい?彼女の世話は大変でしょう?」
「とんでもございません。お嬢様はとても良くしてくださいますよ。」
俺は完璧に蚊帳の外だ。
俺と八神は住む世界が違う。
改めて思い知らされた。
「由莉亜にそのように言いなさいと念を押されているのではないかい?」
「それよりもキッチンをお借りしてもよろしいでしょうか?」
「構わないけれど。」
向井と呼ばれたスーツの男がキッチンに向かった。
八神と君島さんは親しそうに話している。
折戸さん以外と親しそうにしている八神を見るのは初めてだ。
俺はそんな二人を見ている事しか出来なかった。
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