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第18話

アレから数日が経った。 当然、一回たりとも八神からの連絡はない。 俺からするつもりもない。 俺達の関係は終わった。 いや、今思えば始まってもいなかったのかもしれない。 八神は、バカの一つ覚えのように好きだのなんだの言っていたが、俺から言った事はない。 だから、なにも始まっていない。 でも、俺はいつか言おうと… 言わないといけないと思っていた。 認めたくない俺と、認めようとする俺… 板挟みにされた俺が爆発して招いた結果、俺は八神に突き放された。 あの日、部屋を飛び出さないで認めていたら… 認めようとする俺が居たならあの場で認める事も出来た筈だ。 バカバカしい… 女じゃあるまいし… 「…あー…なに腐ってんだ、俺は…」 カーテンの閉まった薄暗い部屋の天井見上げながら呟いた。 隙間から光が漏れている。 今が夜でない事は分かった。 妙な虚しさだけが残って、盛大に溜息を吐いた。 玄関の扉がノックされる音を聞いた。 このボロアパートにピンポンなんてものはない。 そもそも人の来ないこの部屋にそんなものは必要ない。 相手が誰だかは分かっている。 この場所を知ってるのは、母ちゃんと姉ちゃんと颯斗くらいだ。 この三人の中で今ココに来られる状況にあるのは颯斗だけだ。 ここ数日、腐りきった俺は大学にもバイトにも行かなかった。 颯斗からは何度も連絡があった。 ノックも二回くらい聞いた。 俺はそれを全て無視した。 今は誰にも会いたくない… ろくな飯も食っていない… 買い置きは底を尽いたし、いい加減も腹減った… 流石にこれ以上颯斗に心配かけるのは悪い気がして、ノック音に応じてガリガリ頭を掻きながら扉を開いた。 目の前の人物は颯斗じゃなかった。 あまりにも意外な人物で思わず瞬きを繰り返した。 「おやおや、酷い有り様ですね、黒木君。」 「…折戸さん。」 八神関連の人間には会いたくなかった。 八神に見放されて腐ってる俺を知られたくなかった。 そもそも折戸さんが何でココを知ってるのか… 颯斗… いや、颯斗は勝手にそんな事をするようなヤツじゃない。 「何故私が此方に居るのか…といったところでしょうか。…あぁ、一応言っておきますが、颯斗君ではありませんよ?」 「知ってる、そんな事…」 「貴方の居場所くらい、調べようと思えばいくらでも調べられる事は出来ます。もちろん、総一郎も簡単に調べる事が出来た筈です。何故総一郎がそのようにしなかったのか、黒木君、貴方に分かりますか?」 「…分からない、そんなの…」 「でしょうね。立ち話もなんですので、上がりますね。」 部屋に篭りっぱなしだったせいもあって部屋はとても人を招ける状態じゃなかった。 「ちょ、折戸さん、どっか外に…」 「そのようなだらしのない格好でですか?」 触れた髪はボサボサで、身に付けているのはボクサーパンツだけ… そういえばシャワーいつ浴びたっけ…と考え出す程酷い有り様だ。 折戸さんの言葉に納得した。 「なにも出せないけど…それでいいなら…」 仕方なく折戸さんを招き入れようとしたが、靴を3足も置けば埋まってしまう程の狭い玄関だ。 折戸さんが入れるスペースはない。 仕方なく身を屈めて、自分の靴を積み重ねる事でスペースを作った。

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