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第19話
開けたスペースで折戸さんは靴を脱ぎ、綺麗に靴を揃えた。
狭い家なんだからそんな事はいいのに…と思いながら、床に散らばったパーカーを拾い上げて羽織った。
折戸さんは中に入るなり、ズカズカとゴミやら服やらの障害物を跨ぎながら、断りもなくカーテンを開いて窓を開けた。
「こんなに薄暗く空気の悪い部屋に居ては気が滅入りますよ、黒木君。」
なんの遠慮もない人だ。
まるで自分の部屋に居るみたいにソファーに腰を掛けた。
「折戸さん、俺に何か用事か?…」
「颯斗君がとても心配しています。」
颯斗は口実だ。
俺の直感だが、折戸さんは八神の話をしに来た。
「颯斗には悪いと思ってる…」
「…あと…総一郎が仕事馬鹿になってしまって困っています。」
「アイツの事はもう俺には関係ない話だ…」
「随分と無責任な言い方をするのですね、黒木君。…私はね、貴方が羨ましいのですよ…」
「…羨ましい…俺がか?」
「颯斗君の特別な存在でありながら、総一郎には愛されて…まったく、羨ましいですよ、本当に…」
それはまるで折戸さんが八神を好きみたいな言い方だ。
「折戸さんはアイツの事…」
「おやおや、余計な詮索をさせてしまったしまったみたいですね。」
折戸さんは困ったように笑った。
「別に俺は颯斗の特別なんかじゃない。颯斗の特別は、あんただろ?」
「そうであって欲しいのですがね…」
「折戸さんが誰を好きだとか好きだったかとかはこの際どうでもいい。…ただ、颯斗泣かせたら許さない…」
「そうきましたか。…でもね、黒木君、許さないと言うのであれば、それは私も同じですよ。」
「は?」
「貴方が総一郎を傷付けるのならば、私も黒木君、貴方を許さないと言っているのですよ。」
折戸さんのメガネの奥の瞳が鋭い。
「…」
「その意味が分からない程、貴方は馬鹿ではない筈です。」
違う…
俺が八神を傷つけたんじゃない…
八神が…
八神が俺を手放したんだ…
「なんでそんな事、折戸さんに言われなきゃならないんですか?…俺を手放したのは…」
「貴方はいつまで総一郎のせいにしているつもりなのですか?」
俺の言葉は折戸さんに飲み込まれた。
「は?…」
「今回の件を含め、貴方はいつまで総一郎に甘えるつもりなのですか?…と聞いているのです。」
俺が…
八神に甘えてる…
折戸さんの言っている事がいまいちピンと来なかった。
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