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第22話
15分後、マンションに到着した。
重厚な扉を引いて中に入ると、ポケットから取り出した鍵を差し込んで自動ドアのロックを解除した。
自動ドアの先は広いエントランス。
コンシェルジュに頭を下げられて、軽く頭を下げ返した。
何度も来ている場所なのに、初めて気付く事が多い。
入り口の扉の重さとか、オートロックを解除した時の感覚とか、エントランスの広さとか、コンシェルジュの存在とか…
基本的に、駐車場から中に入る事が多い。
何度かココを通った事はあるが、そんな事に気付く余裕はなかった。
俺は初めて冷静な気持ちでココまで来たのだと改めて実感した。
エレベーターのボタンを押して、初めて使った鍵を見つめながらエレベーターを待った。
暫くすると、エレベーターが到着の音を響かせて、扉が開き、ゆっくりと乗り込んだ。
「60階って、なんだそれ…笑える。」
最上階である60階が八神の家だ。
60階とか、口にしただけで笑えてくる。
ボタンを押すと扉が閉まり、奥の壁に寄り掛かる。
余裕でいた筈なのに、通過回数を示す電光掲示板を見た途端に気持ちがソワソワして落ち着かなくなった。
「…なんだコレ…手、震えてる…」
手の震えが止まらない。
ずっと震えていたのか、今震え出したのか…
どちらかは分からないが、小刻みに震えている。
それを隠すように拳をキツく握った。
暫くすると、エレベーターが止まって扉が開いた。
エレベーターを降りて、この階にたった一つしかない扉の前に立った。
目を閉じて、深呼吸をした。
合鍵…
これを使えば、簡単に中に入れるんだろうが、ポケットに戻した。
拳を開いて震えた指先でインターフォンを押した。
八神が出てくる気配はない。
ジーパンのポケットからスマホを取り出して時間を確認した。
18時ジャスト…
帰っている筈がない。
扉に背を預けてしゃがみ込んだ。
俺はなんとしても、今日中に八神を捕まえなきゃならない。
ココに来れば確実だとは思ったが、帰ってくる保証はない。
寒い…
もっと着込んでくるべきだったと後悔した。
特にやる事もなく、スマホの時計をボーッと見る。
1、2、3、4、5 ~ 55、56、57、58、59、60…
何度も繰り返す。
もう何回数えたかも分からない。
実際数えていたのかも分からない。
秒数の横は怖くて親指で隠している。
寒い…
別に鼻水が垂れているわけでもないが、なんとなくスンと鼻を啜った。
そっと親指を退けた。
9時ちょっと過ぎ…
「…なんで…」
なんで帰って来ない…
時間なんて見るんじゃなかったと後悔した。
猛烈な焦りに襲われた。
なんで…
なんで…
それしか考えられない。
立ち上がり、ドアノブを握って扉を開けようとしてもガンガンと鍵が引っ掛かる音がするだけだ。
インターフォンも壊れるんじゃないかと思うくらい何度も何度も押した。
俺がしているのは無駄な事だ。
八神が出て来ない事は分かっている。
こうでもしていないとおかしくなりそうだ…
インターフォンを押す度に不安が膨らんでいく。
変な方向にばかり考える自分が嫌になる。
鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなってきた。
泣くな…
女々しい…
「…言ってやろうと…思ったのに、…居ないとかあり得ないだろ…バカ…腹立つ、八神のくせに…」
苦しくて…
どうにかなりそうだ…
「…き…嫌いじゃ…ない…嫌いじゃないから…だから…帰って来い…ッ…」
嫌いじゃないと口にした数だけ溢れた涙が床を濡らした。
閉ざされた扉に行き場をなくした言葉を何度も吐き出した。
扉を手が赤くなるまでドンドン激しく叩きつけながら吐き出した。
もう…
限界だ…
ズルズル床に崩れた時、暖かい何かに後ろから包まれたような感覚がした。
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