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第16話

八神がなにを言っているのか分からない。 「どういう意味だ…」 「本当は、自分の為のものだったのではないのかい?」 「違うッ、俺はお前の…」 八神の目の冷たさに、俺は続きを言えなくなってしまった。 ホントに八神の為だったのか… 八神の言う通り俺自身の為だったのか… 分からなくなった。 なんとなく気まずくて親指の爪が人差し指の爪を弾く。 静かな室内にパチパチとその音だけが響いた。 「俺の…なんだい?」 「だから、それは…」 八神の雰囲気に飲み込まれていくのが分かる。 言い訳も許されない雰囲気だ。 それに負けて上手く言葉が出なかった。 八神の視線に突き刺されたみたいでそのまま動く事も出来なかった。 「…蹴人、君は俺の事が嫌いかい?」 なんで八神がそんな事を言い出したのか分からない。 俺が八神を嫌いだなんて言った覚えはない。 嫌いなヤツにヤらせる程俺は軽くはない。 そう言いたいのに言葉が出ない。 「…ッ…」 「黙っていては話にならないよ、蹴人。」 「…ん…ない…」 「…」 「…分かんないって言ってんだ!」 自分の声が震えてるのが分かった。 もう、限界だ… 意味の分からない感情に振り回されるのも、俺の気知らないで追い詰めてくる八神も… これ以上は、俺が壊れる… 「いつになれば分かってくれるのだろうね、君は…。…俺はいつでも伝えてきた筈だけれどね…」 だから分からなくなる。 八神が言えば言うだけ俺は追い詰められて身動きが取れなくなる。 「もう…もう沢山だ…」 「…」 「こんな訳分からないのは、もう沢山だ!!」 感情任せに言葉を吐き出す。 このままココに居続ければどうなるかくらい分かっている。 制御出来なくなった言葉は鋭くて、最も簡単に人の心を突き刺してエグる。 そうなる前に逃げ出そうと、後ろを向いた。 でも、八神はそれすら許さないらしい。 後ろから抱きしめられてあっさり捕まった。 「ごめんね、少し追い詰めすぎてしまったね…」 「離せッ…」 「蹴人、逃げ出すのは狡いよ…」 正論すぎて返す言葉もなかった。

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