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第29話

安心したのも束の間、俺は思い出した。 折戸さんが言っていた明日の事だ。 「…お前、結婚するのか?」 身体を起こして、八神に問う。 「結婚?…蹴人は俺に結婚をしてほしいのかい?」 「違っ…折戸さんが明日お前が結婚するか決まるって言ってた…」 「蹴人、もしかすると君は俺の結婚を止めに…」 俺は手を伸ばして八神の口を塞いだ。 「おい八神、よく聞け…もう二度と言わない…」 「…」 ゆっくり八神の口を塞いでいた手を離した。 「俺は…お前の事が嫌いじゃない。多分、俺は…お前のモンで、お前は俺のモンなんだと思う…。だから、お前は黙って今まで通りバカみたいに俺だけを見ていればいい。…分かったか?」 それが素直じゃない俺の一世一代の言葉だった。 「…それは、告白と捉えていいのかい?」 「さあな…」 「では告白として有り難く受け取らせてもらおうかな。…それになかなかの独占欲だね。嬉しいよ。」 「…でも、結婚…」 「俺が、君との関係を無かった事にして結婚をするとでも思っているのかい?」 「でも、お前には許嫁が居るだろ…」 八神が珍しく盛大に溜息を吐いた。 「俺が結婚をするのだとすれば、相手は君以外には考えられないよ…」 「…ばっ、頭の悪い事を言うな。」 「言わせておいて、酷いなぁ。…蹴人、結婚の話だけれど、俺も由莉亜も全くそのような気はなくてね、由莉亜のお父様が勝手に言っているだけの事なのだよ。」 「勝手にって…」 「まだ、由莉亜のお父様と父が繋がっていた時代に、父が適当な返事をしたのだろうと思う。昔は、由莉亜の家も大きかったのだけれど、今は…。そういった理由から由莉亜のお父様は俺と由莉亜の結婚を急いでいるらしくてね。しかし、力を持たない君島の家は、もう父の眼中にはないのだと思う。俺と由莉亜が結婚をしたところで八神の家にも君島の家にも何の利益もないという事をね、由莉亜のお父様に理解していただく為に会う事になっていたのだよ。」 難しい事は、俺にはよく分からない。 多分、金持ちに有りがちな話なんだと思う。 でも、そんな事より他人の家の事みたいに実家について話す八神に違和感を感じた。 実家と何かあるのか?… そういえば、前に見せて貰った写真に八神の父親は写ってなかった。 それと何か関係があるのかもしれないと思ったけど、俺からその事に触れるのは避けた。 「…お前も君島さんも、その気がないって事か?」 「もちろんだよ。由莉亜の事は好きだけれど、蹴人への気持ちとは違うのだよ。幼い頃からの仲という事もあって、もう家族に近い存在なのかもしれないね。多分、由莉亜も同じ気持ちだよ。」 「お前はそうでも、君島さんは違うかもしれないだろ。こないだ会った時、はっきり許嫁って言ってたしな。そう思ってるなら、わざわざ許嫁とか言わないだろ?」 「昨日、由莉亜と会った時にきちんと叱っておいたよ。由莉亜は少し意地の悪いところがあってね、君は由莉亜にからかわれたのだよ。」 「…は?」 「由莉亜が言っていたよ。君の反応があまりにも可愛らしくて意地悪をしたくなってしまったと…。そのせいで俺と蹴人の関係が悪くなってしまった事を話したら、珍しくとても反省していたよ。」 どうやら俺はからかわれてたらしい。 少し悔しい気もする。 あの日、俺は君島さんの思うツボだったんだと思う。 俺は、それだけ君島さんと八神の関係が許せなかったんだと再確認せざるを得なかった。

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