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第40話
そうこうしてると大学の近くまで来た。
なんとなく今は離れたくない気分だ。
八神があまりにダメすぎて、側に居てやりたくなる。
「到着してしまうね…」
八神があからさまに残念そうに言って溜息を吐いた。
「だな…」
「離れたくない…」
「お前だって、仕事あるだろ…」
「仕事か…何故俺たちは同年代ではないのだろうね…」
「そんな事言い出したらキリがないから止めとけ。」
「…そうだね。」
暫く無言が続いた。
そんなのは、どうしようもない事だ。
こういう形で出会ったのだから仕方ない。
実際同学年だったら出会えてなかったかもしれない。
お坊っちゃまな八神とはあまりに接点がなさすぎる。
今だって接点なさすぎるから、こうして八神と居る事が不思議なくらいだ。
「…お前さ、どうして俺なんだ?」
「またその質問かい?」
「お前なら俺じゃなくたっていくらでも…」
「それ以上言うようならば、怒るよ?」
「だってそうだろ?俺、男だし、可愛げないし、年下だし…」
「そうだね。確かに君は男性で、素直ではない上に年下だね。…でもね、君だから…蹴人だからこんなにも愛せるのだと俺は思っているよ。」
大学の近くで車が止まった。
校門前に止められるのは俺が嫌がると八神は分かっているんだと思う。
「ったく、ホントお前は…」
盛大に溜息を吐いてから八神のネクタイを引いて唇に噛み付いた。
正面から歩いて来るヤツらには丸見えだと思う。
そんなのどうだって良かった。
どうせ八神の顔は見えないわけだし…
ただ今は俺が八神を欲しかった。
人目なんてどうでもいいくらい、八神が欲しかった。
「…まったくと言うのならば、君の方こそまったくだ…」
「黙れ。」
「蹴人、今日はアルバイトはあるのかい?」
「あぁ、流石にな…」
思わずふてっていた事を言いそうになった。
「流石に?…」
「いや、何でもない。」
「終わる時間はいつも通りかい?」
「あぁ。」
「では、迎えに行くよ。」
「好きにしろ。」
「…そして、今夜も泊まって行くと良いよ。」
「分かった。」
「君は本当に可愛らしいね…」
「知ら…ッんぅ…」
今度は八神に噛み付かれた。
目を閉じて、八神の首元に腕を回した瞬間に窓ガラスが激しく叩かれた。
その方向に目をやると、颯斗が凄い形相で張り付いていた。
「…えーと…顔は崩れているけれど、彼は新見君で間違いないよね?」
「あぁ、あれは颯斗だな。…しっかし酷い顔だ…」
俺は仕方なく扉に手をかけて車を降りようとした。
その瞬間、八神に腕を掴まれて引き寄せられた。
そして、もう一度唇を噛まれた。
「蹴人、行ってらっしゃい。」
「お、…おう。」
そう言った八神の笑顔があまりにも眩しくて抗議する気も失せて、その代りにバカっぽい返事を返していた。
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