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第43話
子ども扱いされてるみたいで腹が立つ。
でも、俺は八神にこう言われるのが嫌いじゃない。
理由は特にないが、嫌な気はしない。
「それ、止めろ…」
「何故だい?」
颯斗にも言っていた言葉だから…
「…ガキ扱いされてるみたいで腹立つからだ。」
本心なんて、言えるわけがない。
八神じゃあるまいし、そんな小っ恥ずかしい事をこの俺が言えるわけがない。
「それだけかい?」
この甘い声は、いつだって俺を麻痺させる。
素直じゃないガチガチの心も全て…
必死に隠した言葉、気持ち、表情…
全部、綺麗さっぱり剥ぎ取っていく…
「それ、…多分お前の口癖だから…」
「なるほど、言われてみればそうかもしれないね。」
「…だから、腹立つ。」
誰にでも言うような口癖を言われるのは…
「気に入らない?」
「…腹立つ。」
「何故?」
八神はなんとしても聞き出したいらしい。
同じような事を繰り返す。
「…口癖…だからだ…」
「これは、困ったね…」
「なにがだよ…」
「…部屋まで待てない程に、君が欲しくなってしまった。」
「いや、待て!!待て待て待て待てッ!!」
カーセックスなんて御免だ。
死んでも御免だ。
こんな狭い場所で…
誰に見られるかも分からない場所で…
絶対に御免だ。
俺は八神の下で逃れようと必死だった。
でも、八神は当然簡単には逃がしてくれなかった。
「暴れてはいけないと言ったばかりだけれど?」
「あ、暴れるに決まってるだろ!」
「動くと余計に目立ってしまうよ?」
「…ッ…」
大人しくなった俺に、八神は満足気だ。
睨み付けると更に嬉しそうに笑った。
「君のその顔は俺を煽るだけなのだと、いつになれば覚えるのだろうね?…」
「…知るか。」
「けれど、覚えなくてもよいよ。君は永遠にそうして俺を煽り続けていれば…」
「なんだそ…ッ…」
俺の言葉が止まったのは、捻じ込まれた八神の舌のせい…
少しこそばゆいのは、八神の指先が俺の肌を這っているせい…
そして、その指先に期待してしまうのは…
俺が感じているせいだ。
そして、離れていく八神の唇に物足らなさを感じるのは、俺が欲張りだからだ。
その唇を捕まえて貪る俺は…
自分でも嫌になるくらい卑しい…
一体俺はいつからこんなになったんだろう…
誰でも良かった筈の俺が…
一体いつから…
いつから八神じゃないとダメになったんだろう…
「…蹴人、どうしても嫌かい?」
「嫌に決まってるだろ!」
「仕方がない、諦めるよ。あまり嫌がる事をしたくはないからね。…蹴人、降りるよ。」
八神が俺の上から退いて運転席に戻るとキーを抜いて車を降りた。
機嫌を損ねたかもしれない。
どうして俺はいつも…
そんな自分が腹立たしい…
倒れた椅子を戻して車を降りた。
なんとなく気まずい…
八神の少し後ろを歩く。
「…」
「蹴人、もう少し近くにおいで。」
「な、何でだ。」
「離れて歩く理由はないでしょう?」
引き寄せられて、肩が触れた。
腰に八神の腕が回った。
心臓がうるさい。
変に意識しているんだと思う。
「…離せ…」
「嫌だ…と言ったら?」
意地悪だ。
ホント、意地悪だ。
「…逃す気、ないんだろ?」
「もちろんだよ。」
腰に回った手がケツを撫でた。
「お、おい…」
「これくらいは許して…」
そのままエレベーターに乗り込んだ。
撫で方が俺を煽るようにいやらしい…
調子に乗って、今度は揉み出した。
鷲掴みにするようにガッチリと。
抗議の声を上げようとした時、エレベーターが1Fで止まった。
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