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第25話

俺の腕の中で蹴人が逃れようともがく。 「もうたくさんだと言ってるだろ、離せッ!」 「離さない!…絶対に離さない!」 「嫌だ…離せっ!」 「離したら…君はまた逃げるだろ!もう二度とこうはさせてくれないだろ!だから、逃がさない…絶対に。」 形振り構わず…とはこのような事か。 他者にどのように見られるのかなど気にせずに振る舞うなどという事が俺にも出来るのか… こんなにも声を張り上げて、余裕など微塵もない 八神総一郎らしからぬ… 「逃す気なんて…ないクセに…」 その言葉は、俺を正気にさせた。 蹴人はこのように思っていたのだなと… 確かに逃がしたくはない事は事実だ。 叶うのならば、この腕に永遠に閉じ込めていたいくらいだ。 けれど、その事が蹴人の逃げ場となっているのならば話は別だ。 俺達の関係を一度リセットするしかない。 そして、きちんと俺を選ばせる。 自信があるわけではない。 今は、一握りでも希望があるならば信じるしかない。 今迄蹴人と築いてきた関係を… 俺だけが求めているだけでは意味がない。 確かに、蹴人を甘やかしてきたのは俺だ。 蹴人からも求められなければ、俺が望む蹴人との関係は得られない。 俺は蹴人に背を向け距離を取った。 「…そうだね。けれど、俺も疲れた…追いかけてばかりでは…疲れてしまうよ…」 「散々追い詰めておいて、…突き離すのか?…」 俺が甘やかしに甘やかして、そうして蹴人の意思など考えずに流してきてしまった。 こんなにも追い詰めてしまった。 「…どうだろうね。全ては君次第なのではないかな?」 「…俺…次第…」 「曖昧な関係の終止符の打ち方を決めるのは君だよ。」 これ以上追い詰めるな… 分かってはいるけれど、物語には必ずどこかで終止符を打つ必要がある。 物語の続編のように、その先にストーリー が続いているのか、完全なる打ち切りであるのか… 少なくとも、俺にはその先のストーリーがある。 しかし、その先のストーリーは蹴人無しには成立しない。 全ては、蹴人次第… 「…分からないって…言ってるだろ…」 「分からない筈が、ないよね?」 「…」 「俺は何度も君に伝えてきた。…今度は君の番だよ。蹴人…聞かせてほしい。もういい加減に曖昧な関係は…」 「黙れ!!自分ばかり勝手に話を進めやがって!!全然ついていけてないんだ、俺は!!最初から、お前に会った日から、全然ついていけてないんだ!!嫌いとか嫌いじゃないとかそういう以前の問題なんだ!!いい加減にしてほしいのは俺の方だ!!」 「…そう、あくまでもその姿勢を貫くのか…」 もしも先のストーリーがあるのだとしたら、今が終止符の打ち時だろう。 どのように転がるかは分からないけれど… 俺の判断に誤りがなければ、今しかない。 一度打っておかなければ、俺達の関係は永遠に煮え切らない。 「…今日は、もう帰る。…頭グチャグチャで、整理が出来ない…」 「今日は?俺達に明日など無いよ…」 「…」 「俺達の関係はここまでだ。…良かったね、蹴人。俺から逃る事が出来て…君の望みが叶って…」 「…ッ…」 「…話は終わったのだから、早く帰りなさい。君がこの場所に留まる理由は、もうないよ。」 蹴人が自ら俺を選ぶ日が来るのだとすれば… その日まで… さよならだ… 自ら選んだ事だというのにも関わらず、泣いてしまいそうだ。 この腕にまだ蹴人の温もりが残っている… 苦しい… 切ない… 淋しい… 俺は背中で蹴人が俺から去っていく音を聞いた。

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